関西人が思っていた“いか焼き”と違う
数年前のことです。
マレーシア在住で関東出身の方と家で食事をした時、「ちょうど “イカ焼き” が売ってたから買ってきたよ。はい」とお土産に頂きました。筆者は関西出身でいか焼きは大好物です。マレーシアで売っているのは見たことがなく、かれこれ10年以上は口にしていなかったので一気にテンションが上がりました。
「いやぁ、ついにマレーシアでも いか焼きを売る店が出きたか」と感心しつつ、「そういえば、近所の駅前にあった いか焼きのお店が旨かったなぁ」と昔よく食べた いか焼きのことを思い出しながら、触れるとまだ温かい目の前の箱を開けるのを楽しみにワクワクしていました。
そして、「ほら、遠慮せず食べて」と言われたのを合図に「では、いただきます」といよいよオープン!! すると姿を現したのはなんと・・・
キレイに焼き色のついた大きなイカの丸焼き。
「なかなか立派なサイズだろ。美味しそうな “イカ焼き” じゃないか」「ほんとだー」などと周りは盛り上がっているのですが、唯一の関西人である筆者はまだ状況を把握できていません。
~筆者の脳内~「いやいやいや、これ いか焼きちゃうし。ただの “焼いたイカ” やん!」
ここまでお読みになって、関西(&中国・四国の一部)ご出身であれば筆者が感じた戸惑いをよく分かって頂けるでしょうし、逆に関東などそれ以外の地域のご出身であれば一体何がおかしいのか、と思われたことでしょう。
そう、関西と関東では「イカ焼き」が意味するものが全く違うのです。関東をはじめとする地域ではイカ焼きといえばイカの丸焼きのこと、一方の関西で言う いか焼きとは、イカの切り身を入れた生地をプレスして薄く焼き、甘辛いソースをかけて激安で売っているB級グルメな粉もんソウルフードのことなのです。
どちらのグループでも、シンプルこの上ない呼び名の「イカ焼き」だけに、まさか自分が知っているもの以外の料理を指すことがあると思っていない人が意外と多いようです。
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「〇〇焼き」と「焼き〇〇」
先の話に戻りますが、イカ焼きをお披露目した場にいたのは筆者以外は全員が関東出身者だったため、「イカを焼いてあるんだから“イカ焼き”に決まってんだろ。関西の呼び方がおかしいんじゃないの?」と言われた時には、思わず「そうかもしれない・・・」と一瞬弱気になりました。
しかし! このままでは引き下がれません。イカを焼いたから“イカ焼き”っていう理屈なら、じゃあ“たこ焼き”って何なんだよ、と。誰に聞いても、もちろん「たこ焼き」と言えば中にタコの切り身が入ったあの丸い粉もんのことです。イカ焼きと同じロジックであれば、タコをそのままグリルしたものが“たこ焼き”になるはずですが、普通そんな呼び方はしません。
他にも、魚を焼いたものは“魚焼き”ではなく「焼き魚」、鳥肉を串に打って焼いたものは“鳥焼き”ではなく「焼き鳥」、もっと簡単なもので言えば、肉を焼いて食べる料理は“肉焼き”ではなく「焼肉」です。さらに、「焼きおにぎり」「焼きトウモロコシ」「焼き餃子」「焼豚」「焼き芋」などなど、調理法として食材を焼いた(グリルした)ものについては「焼き〇〇」と呼ぶことが圧倒的に多いと言ってよいでしょう。これらを「〇〇焼き」と逆に呼ぶと明らかに違和感を感じます。
では、「〇〇焼き」がしっくりくるパターンにはどのような共通点があるでしょうか? 例えば、「たい焼き」は当然ながら生地の中に餡子やクリームなどが入った粉もんのお菓子のことで、決して魚の鯛を焼いた料理のことではありません。また、「しょうが焼き」は食材の生姜そのものを焼いた料理ではなく、生姜ベースのタレで肉や野菜を焼き付けた料理のことです。「玉子焼き」も、卵自体を焼くのではなく溶き卵に味付けをして焼き上げたものを指します。
他にも考えてみると、さきほど挙げた「たこ焼き」に加え、「お好み焼き」「もんじゃ焼き」「回転焼/今川焼」「どら焼き」など、調理して仕上げた料理やお菓子(粉もんを多く含む)に「〇〇焼き」という呼び名がついていることが分かります。関西で言う「いか焼き」も、このカテゴリーにぴったりと当てはまるわけです。
こうやってみると、関東などで理解されている「イカ焼き=焼いたイカ」というのは、広範囲で使われているとはいえ料理の呼び名全体の傾向から見ると例外的な用法と言ってよいかもしれません。
※「焼きそば」「焼きめし」(ただ麺や米を焼いたという意味ではなく、野菜や肉などと炒めながら仕上げた料理を指す)など、上にあげたパターンに当てはまらないものも若干あります。
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結論:一度関西の「いか焼き」を食べてみて
何はともあれ、日本語というのはつくづく面白いものですね。方言や特定地域独自の呼び名というのは、その地域に住む人にとってはごく当たり前である一方、それ以外の地域の人には全く通じないこともよくあります。これだけネットやSNSが普及した現在でもいまだにこうしたギャップが残っているというところに、言語が持つ奥深さを感じます。
「たこ焼き」はすでに全国区の知名度、いや海外でも通用するほどなので、個人的には同じ関西発祥の「いか焼き」も粉もんのバリエーションんとしてもっと広がっていって欲しいなと思っています。まだ試したことのない方は、ぜひいつか食べてみて下さいね。お好み焼きともたこ焼きとも違う、独特のもちもち感と香りがたまりません。買ってその場でちょっと立ち食いするのに最高ですよ。(イカの身がゴロゴロ入っているというわけではないのであしからず。あくまで生地とソースがメインです。※個人的感想)
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