新型コロナの感染拡大が始まった頃から日本全国で見られるアウトドアの一大ブーム。どこに行ってもキャンプに便利なグッズが店頭に並んでいる様子を目にします。
特に売れ筋なのが、屋外で楽しむバーベキューや焚き火に役立つアイテムです。ファイアースターターの火花でチャチャッと火起こしできる慣れた人もいますが、やはり手っ取り早く火を起こす上で便利なのはトーチやターボライターですよね。
SOTOの「ポケトーチ」は、100円ライターを入れるだけでターボライター(ミニバーナー)に変身するという簡単さとお手軽な価格で根強い人気があります。この記事では、フライトを利用したキャンプでポケトーチを持参できるのかどうか、筆者が実際に空港で経験したことから注意点を書きたいと思います。
「機内持ち込み禁止」と「預け荷物禁止」
キャンプなどアウトドアで使うものの中で、保安上の理由から機内に持ち込めないアイテムは沢山あります。
当然ながらナイフ類や鋭利なものがダメなことは分かるでしょう。ポケットナイフやワインオープナーも検査に引っかかります。ただし、ブッシュクラフトナイフやノコギリも含めて刃物類は預け荷物に入れることができます。また、携帯バーナーやトーチのヘッド部分は、預け入れ・機内持ち込み共に可能です。(ただし、かなりの確率で保安検査の際に止められ、検査員が着火しないこと&ガス臭がしないことを確認してから通過を許可されます。)
注意が必要なのは、CB缶・OD缶などのガスボンベ本体とターボライター。これらは機内持ち込みも預け入れもできません。飛行機を利用する場合は、到着してから現地調達して使い捨てるしかないわけです。一方で、意外に思うかもしれませんが普通の小型ライターは身に着けているなら一人1個のみ持ち込みが可能です。(注:一部の国の空港では、出発時に持ち込み禁止の場合もあるので要確認)
そこで、ガス供給元である100円ライターとヘッドのバーナー部分を完全に分離できるSOTOのポケトーチが、フライトを利用したキャンプやアウトドアでも持参できるオプションとして挙げられることが少なくありません。実際に、機内持ち込みができるかどうか空港に確認して持参した方の記事などもネット上で見かけます。
関西空港ではOK
そんなわけで、事前に色々と情報を調べた上で空港へ。下手にチェックインして預け荷物としては禁止品目に含まれるライターと疑われて後で呼び出されるのも困るので、中身を完全に分離した状態で手荷物にしたポケトーチを持って関西空港の保安検査場へ向かいます。
ポケットの中の物を全部バスケットにのせて、いざX線検査を通過。同時に持参したイワタニの携帯コンロ「ジュニアコンパクトバーナー」は、着火しないことを確認するためバッグから出して中身を開けるよう検査員から指示されましたが、バスケットにのせたポケトーチと100円ライターは問題なくパス。
「やっぱり大丈夫なんだ」と確信した数日後、問題が発生したのは新千歳空港発のフライトで受けた保安検査でした。
新千歳空港ではNG?
保安検査場でX線検査を通過後、通常であればそのまま流れてくるはずの筆者のバスケットは別レーンへ。検査員がポケトーチを見ながら奥でヒソヒソと「これは・・・」「・・・ですね」と言っています。案の定イヤな予感は的中。検査員がツカツカとやってきて、「100円ライターはOKですが、このトーチは持ち込めません」とのこと。
こちらも、そもそもポケトーチ単体ではライターとしてすら機能しないことや、ガス本体を取り外した携帯バーナーやトーチ類は機内持ち込み許可品目に入っていること、またバーナー部分と一緒に持っていることが問題なのであれば100円ライターは捨てる、と説明しましたが、検査員は頑として首を縦に振りません。理由を尋ねると、「機内でこのトーチを他の乗客が手にして、その人が持ち込んだ100円ライターをセットして使用する可能性があるので禁止」だと。
国土交通省によると、ハイジャックやテロに凶器として使用される恐れがあるものは機内持ち込みができない、とあるので、検査員の方はその理屈で禁止と判断したのだろうと思います。ただ、各検査員の裁量によるとはいえ、出発時の空港で問題なく保安検査が通ったものを同じ日本国内の空港から飛ぶ帰りの便で禁止されるというのは、やはり利用者側からすると混乱しますし非常に不都合が生じると言わざるを得ません。
「来る時には、全く同じ状態で保安検査をパスしている」といくら説明しても、新千歳空港の検査員としては関西空港で検査をパスしたかどうかは関係ない、という立ち位置で話は平行線のまま。そうこうするうちに、検査員が航空会社の担当者を保安検査場まで呼び出すことに。
それほど混雑している時間ではなかったはいえ航空会社のスタッフまで巻き込むことなった点は申し訳なく思いながらも、ここであいまいに終わらせるなら同様のトラブルが他の乗客にも起こり得るわけで、あきらめずにもう一度説明します。出発空港での検査では問題がなかったことについても触れつつ、航空会社の方に経緯を伝えました。
最初は「またダメなものを持ち込もうとしてゴネている客だろう」といった雰囲気だったのが (そう思われるのも無理はありませんが)、話の全体像が分かるにつれ対応に変化が表れます。往路の関空での状況など幾つか質問された後、「事情はよく理解できたが、裁量を持つ検査員がダメだと判断してしまった以上この場ではどうにもならない」とのこと。当たり前ですが、さらに上のレベルの監督者や省庁からの通達など余程の根拠を示さない限り、検査員の下した判断についてどうのこうのとは言えないわけですよね。
ただ、航空会社のスタッフは「出発空港(往路)では問題なく持って来られたものが帰りの便(復路)で持ち込めないという状況になったのは、フライトを提供する自分たち航空会社の側にも責任がある」ということで、ポケトーチを追加の預け荷物として受け付けてくれることに。検査員も“その場で放棄”ではなく、一旦保安検査場から出て再度預け入れ荷物として扱うことを了承してくれました。
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結局どっちなの?―国土交通省に聞いてみた
保安検査員の仕事は爆発物や凶器などの持ち込みをコントロールすることであり、そのための裁量と権限を持って職務についています。凶器かどうかの判断は航空法や航空法施行規則を学んだ検査員が総合的に行うもので、利用客がいくら説明したところでその判断を覆すことは中々難しいでしょう。
特にSOTOのポケトーチは、トーチヘッドと100円ライターというどちらも単体では持ち込みが許可されている部品構成でありながら、組み合わせると禁止品目であるターボライターの類になるという、現時点では保安上の観点から検査員の判断が分かれる可能性が高いアイテムだと言えます。
しかし、保安検査で特定の製品に対する判断に大きな差が生まれているという状況は、利用者にとって決して好ましいものではありません。それで、空港保安警備の監督省庁である国土交通省航空局に直接聞いてみることにしました。
今回実際に経験したような、空港ごとに規制の適用基準が大きく異なるという現状は利用者に混乱を招くこと、またポケトーチが国交省の定める危険物に該当するのかどうか明確にして欲しいという2点について「国土交通ホットラインステーション」を通じて問い合わせを送ったところ、数日後にメールにて回答がありました。以下はその一部抜粋です。(※ 下線・ハイライトの追加は当ブログによる)
『ご質問のありました「ポケトーチ」についてですが、ライターが取り付けられていない場合、危険物には該当しません。分離したライターは身につけて機内に持ち込み、機内でこれらを組み立てないようにお願いします。』
これでやっとスッキリしました。
単体のポケトーチは、危険物ではありません。(関空のやり方であってたよ~)
新千歳空港の保安検査で持ち込めない理由として挙げられた、“他の乗客の手にわたって不適切に使用される危険性” といった極端な状況が起こる可能性は完全にゼロではないにしても、危険物を排除するという目的において国交省としてそこまでの可能性は考慮しないということですね。そもそも、悪意を持つ人の手に渡れば何だって凶器になり得ますから、現実的な対応をするためには挙げればキリがない可能性の話のどこかで線引きをする必要があります。ポケトーチと100円ライターについては、持ち込んだ乗客本人が責任を持って管理する (ライターはセットしない&身につけておく)、という点を条件にして持ち込みが許可されているわけです。
では、ポケトーチは危険物ではないのだから100%機内に持ち込める、ということなのでしょうか? 全体的に見ると、「危険物でない=持ち込める」と一概には言い切れないようです。
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利用する航空会社に確認を
参考となる点として、国交省からの返答には、
『保安検査場における保安検査は、爆発物や凶器などの持ち込みを制限する目的で実施されるものであり、法令等により禁止された危険物について検出し、輸送可否を判断するものではございません』
とあり、特定のアイテムが輸送できるかどうかについては、国交省のウェブサイト等も参考にしつつ利用者自身で航空会社に確認してもらいたい、ということでした。(参考:国土交通省HP「機内持込・お預け手荷物における危険物について」)
つまり、“ポケトーチ(本体のみ)は危険物ではない”というのが国交省の正式見解ではあるものの、実際に機内へ手荷物として持ち込めるかどうかの最終的な確認は旅行者各自が利用する航空会社に問い合わせる、というのがトラブルを避けるための確実な手順のようです。手荷物のみであれば、自動チェックイン機やオンラインでチェックインを済ませて直接保安検査場へ向かう利用客も多いですが、ポケトーチを持っている場合は念のため航空会社のカウンターで確認した方がよいでしょう。そうすれば、もし機内持ち込みは避けるよう言われた場合にもその場で預け荷物にできます。(ただし、格安航空 (LCC) の場合は預け荷物の重量を事前に購入しておく必要があるので注意。)
ちなみに、筆者が国交省への問い合わせ時に含めた「特定の製品に対する保安検査の判断が空港ごとに大きく異ならないよう、国交省からの何らかの通達か指針が必要ではないか」という意見については、
『ご指摘いただきました判断基準の統一につきましては、国内各社とも調整の上、検討して参ります』
というある程度前向きな返答を頂きました。フライトを利用したキャンプやアウトドアにポケトーチを安心して持っていけるよう、保安検査の目的を果たしながらも柔軟な対応が受けられるようになればと願っています。
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