珈琲で読書

【珈琲で読書】『ニムロッド』上田岳弘 著 (講談社文庫)

投稿日:2021年4月15日 更新日:


登場人物

サーバーの保守サービスを手がける会社の社員である主人公の中本哲史 (ナカモト サトシ) は、新設された課で仮想通貨のマイニング、いわゆる「採掘」を担当することになる。

そんな主人公・中本の恋人として登場するのが、過去の経験も影響して色々とこじらせている感のある外資系勤務の田久保紀子。そして、もう一人重要な人物が、中本より一つ年上の同僚・荷室仁。作家になることを目指している荷室が自分で使っているニックネームが、作品のタイトルにもなっている「ニムロッド」だ。システム管理の仕事をしつつ新人賞に作品を応募し続けていたもののうまくいかず、それが一因となって鬱病にかかり一時休職という、こちらも色々と大変な経験をしている。

主人公の中本、恋人の田久保紀子、そして同僚の “ニムロッド” (荷室)、基本的にこの3人だけでストーリーが回っている。

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読んだ印象

『ニムロッド』は、最初から最後までいまいち内容がよく分からない。ネガティブな意味じゃなく、そもそも全部理解しようと思って読んじゃだめな本なんだと思う。

よく分からないのに、作者の独特のリズムがある文章が持つ最後まで読ませるパワーはすごい。

この作品には、つかみどころのない虚脱感倦怠感みたいなものがブワァーっと漂っている。主人公はともかく、後の二人はどこか不安定なところが言動のはしばしに見えるので、読んでいる間ずっと緊張感が消えない。

でも、意外にも読後感は悪くない。ちゃんと区切りがついたという気分で読み終わることができる。(実際には「あの人、結局どこ行っちゃったんだろう?」とかあるけど、なぜかあまり気にならない。)

IT&機械系が苦手な人は、サーバーの説明や飛行機の話が出てくる最初の数ページ時点でかなりの確率でギブアップしそうになるかもしれないけど、とりあえず読み進めてみて欲しい。不思議なもので、そのうちにだんだんと消化できる=何となく分かった気になってくる。

世界観

仮想通貨という、よく聞くけど多くの人が実際何なのかよく分かっていないものが本作品のテーマとなっている。作中では技術的な点が分かりやすく説明されているので、仮想通貨の仕組みをよく知らない読者でも置いてきぼりになることはないはずだ。

読んでいると、一部で他のアニメ作品の設定を連想させる部分もある。

例えば、裏表紙でも紹介されている「やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける」という表現は、自分の意志でやるのか無理矢理かという点は別にして、『エヴァンゲリオン』の “人類補完計画” と基本的に似たような考え方だ。

また、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』が登場したところでは、そのまま『攻殻機動隊 S.A.C.』の世界に入って “笑い男” でも出てくるんじゃないかと、一瞬思った。確かに “電脳” ならぬ仮想通貨を軸にした本作品の登場人物の内省的な描写は、『攻殻機動隊』の世界観とも重なる部分がある。逆に、『攻殻』の中で本作品の登場人物を出してもある意味違和感がない、ザックリ言うとそんな感じだ。

しかし、『ニムロッド』がどこかで見たようなストーリーだというわけではない。作者が独自の世界観を作り上げた中に、社会批判や風刺的な要素が含まれる他の作品とも共通する部分があったというだけのことだろう。(もしかすると、こうした作品へのオマージュという意味合いは含まれているかもしれない)

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ニムロッド (講談社文庫)

好き勝手に評価してみた

読後感:まあまあスッキリ。「色々あるけど、今日からまた頑張ろう」的なイメージ。

読みやすさ:IT・機械系が苦手な人が軽くめまいを起こしそうな専門的な内容が少し含まれているのと、次々と視点が入れ替わるのについていく必要がある。読みにくくはないけど、万人向けというには少しクセがある (別に悪い意味じゃなく)。

ハマリ度:「作品に入り込んでしまって読むのが止まらない」という感じではないのに、結局止まらず読み進めてしまう。読ませるパワーは読者が意識する以上に強いかも。

作品から一言ピックアップ:東方洋上に去る

コーヒーに例えると:実験的なプロセスで処理した個性的なマイクロロット

その他:第160回芥川賞受賞作

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作品情報

タイトル:ニムロッド

著者:上田 岳弘

レーベル:講談社文庫

出版社:講談社

発売日:2021年2月16日

ISBN: 9784065224502

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40代の通訳者です。
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