コーヒーの品種ノートです。
セントロアメリカーノ (Centroamericano / H1)
由来: | サルチモール (T5296) とルメ・スーダンの人工交配種 |
豆のサイズ: | 大きい |
収穫量: | 非常に多い |
風味の質: | とても良い |
初回収穫: | 2年目 |
さび病: | 耐性高い |
炭疽病: | 耐性あり |
線虫: | 耐性低い |
栽培適正標高: | 北緯5度~南緯5度:1,000m以上 北緯/南緯5度~15度:700m以上 北緯/南緯15度以上:400m以上 |
セントロアメリカーノの歴史
セントロアメリカーノは、T5296 (サルチモール) とエチオピア在来種のルメ・スーダンを交配させて2010年に生まれた品種で、フランス国際農業開発研究センター (CIRAD) 、中央アメリカ各国コーヒー研究所ネットワーク (PROMECAFE)、そしてコスタリカの熱帯農業研究教育センター (CATIE) の共同研究により開発されました。その背景には、今日のコーヒー生産者が直面している大きな課題が関係しています。
世界のコーヒー栽培における最大の問題ともいえるのが、遺伝的多様性の低さです。現在コーヒー豆には数多くの品種がありますが、それらは元をたどるとアラビカ種、カネフォラ (ロブスタ) 種、そしてごく少量のみ生産されているリベリカ種の3つに集約されます。現存する品種はほぼすべてがこれらの系統から突然変異や交配によって生み出されたもの (その大部分はアラビカ種) なので、遺伝子レベルで見るとどの品種も非常に似通っていると言えます。
このように大部分の品種の遺伝子が類似していることの何が問題かというと、どの品種も共通した遺伝的な弱点 (脆弱性) を持っていることです。つまり、地球規模の影響を与えるような気候変動や伝染病・害虫などが発生した場合、世界中で栽培されているコーヒーのほとんどが一気に消滅してしまう可能性があるのです。これは単なる想像上の脅威ではなく、実際バナナにおいてはかつて大規模に栽培されていたグロスミッチェル (グロスミシェル) 種が、1960年頃に大流行したパナマ病によりほぼ絶滅の危機に瀕したという事例があります。
こうした現状を踏まえ、中南米地域で栽培されるコーヒーの遺伝的多様性を少しでも高めるためF1ハイブリッド種の開発が進められてきました。セントロアメリカーノはそうした努力が実を結んだ成功例の一つと言えます。ただし遺伝的に安定していないF1ハイブリッド種は、種子から増やそうとしても子孫に同じ遺伝情報を伝えられない (病害虫への耐性や生産性、風味特性などが失われる可能性がある) ため増やすにはクローンに頼らざるを得ず、生産者は信頼できる種苗業者から苗木を手に入れる必要があるというのがネックとなっています。
とはいえ、親であるサルチモールが持つさび病への高い耐性を引き継ぎ、さらに非常に高い収穫量に加えて風味特性もとても良いセントロアメリカーノは生産者にとって大きな魅力がある品種であり、今後中南米を中心に生産量が増加してゆくことは間違いないでしょう。
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[参考資料]
World Coffee Research (2016) 「COFFEE VARIETIES of Mesoamerica and the Caribbean」, URL: https://worldcoffeeresearch.org/media/documents/Coffee_Varieties_of_Mesoamerica_and_the_Caribbean_20160609.pdf (参照日:2018年3月15日)