当ブログ記事「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの感染状況は?」でも少し触れていますが、マレーシアの感染者が3月14日にはたった1日で約238名から約428名へと倍増。今回の感染増加の主な理由と、今後の見通しについて書きたいと思います。
本記事は2020年3月当時に書かれたものです。現在の状況とは異なる内容が含まれている点をご了承ください。
感染者急増の背景
マレーシアでは初の感染者は比較的初期の1月24日に出たものの、2月中は小康状態、月末から3月にかけて再び増加し始め3月9日に感染者が100名を超えました。この3月初めの増加は、政府系ファンドの理事という職業柄幅広い分野のトップと会う機会のあった人物が感染したことで、いわゆるスーパースプレッダーとなり感染が拡大した結果でした。しかし、ここ数日の急激な増加は全く別の感染源が原因となっていると見られます。
事の発端は、隣国のブルネイ当局があるブルネイ人男性の新型コロナ感染を確認したことに始まります。感染経路を追跡した結果、この男性が2月27日から3月1日にかけてマレーシア・セランゴール州スリペタリンのモスクで行われたイスラム教の集会に出席していたことが判明。ブルネイ当局からの通知を受けてマレーシア政府が調査したところ、この集会がとんでもなく大規模だったことに気づきます。当初政府は「1万人の参加者 (うちマレーシア人が5,000人)」と発表。それだけでも結構な衝撃だったわけですが、その後「実は1万6,000人参加しており、そのうちマレーシア人は1万4,500人だった」と訂正され、数字の大きさに国中がショックを受けます。
マレーシア政府も必死に参加者の特定を進めようとしたものの、人数が人数だけに今から全員を追跡するのははっきり言って不可能。当局がメディアで「この集まりに参加した人はすぐに医療機関を受診して」と繰り返し訴え、3月14日の時点で約3,000人が医療機関を訪れますが、約1,600人に呼吸器系の症状が出ているとのこと。記事作成時点 (3月15日) で判明している検査結果によると、同モスクの集会参加者からすでに約300名近い感染が確定しています。
まだ1万人以上もの特定できていないマレーシア人参加者が国中に散らばっていること、参加者の中には移動に飛行機を利用したケースも多いこと、また参加者間での感染確率が平均よりかなり高いとみられることを考えると、今後数日のうちに数百名、最終的には千名単位で感染者を出す超大規模なクラスター (集団感染) になる可能性も否定できません。(注:3月26日現在、このモスクの集会参加者から1,117名の感染者が確認されています)
明日3月16日にはムヒディン首相が新型コロナ対策の緊急会合を行うと発表されており、そこで感染拡大を防ぐための対応や追加制限等について話し合われるのではないかと見られています。
3月16日夜に発表された活動制限令 (Movement Control Order) については、当ブログの関連記事「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの活動制限令について分かっていること」で詳しく扱っていますのでご参照ください。
今後の見通し
ここ数日の感染者の増加をグラフにして見ると二次曲線的な急上昇を描いており、このままではかなりマズい状況になるであろうことが容易に想像できます。
(2020年3月26日:追記) 当初は新規感染者の大部分を占めていたモスクでの集会参加者ですが、ここ数日はそれ以外の場所で感染した、あるいは感染経路が不明なケースの方が多くなってきている点が非常に心配です。モスクの関連だけで封じ込めればある程度接触者が判明したところで感染は減少に向かうはずですが、感染経路が追えない市中感染が拡大しているとなると対処は非常に難しくなるでしょう。
マレーシア政府はすでに3,500床を確保して感染者の受け入れ準備をしていると報道されていますが、先進国でも不足している人工呼吸器がマレーシアに十分あるとは思えません。医療崩壊を避けるため、今は感染拡大の速度を遅くすることが何よりも重要です。そう考えると、今週末に国家安全保障会議が発表するとしているさらなる規制は、人と人の接触機会を限界まで減らすために厳しい移動制限ならびに外出制限が関係するのではないかと思います。
今後マレーシア政府が実施する可能性のある対応には、次のようなものが挙げられます。
学校の休校措置
マレーシアの公立学校はちょうど明日から一週間の春休みに入りますが、そのまま学校を再開せずに休校命令が出される可能性があります。ただし、感染者が都市部を中心にすでに相当数広がっていると仮定すると、休みの期間中に家族での里帰りや旅行などでさらに国中に感染が拡散するリスクがあり、休みの後で休校にしてもすでにタイミングを逸しているのではないかとも感じます。
活動制限令 (MCO) により、3月18日よりすべての保育園、小中高ならびに大学等の教育機関は閉鎖されます。
集会の制限
マレーシアの国教であり人口の6割を占めるイスラム教徒は、毎週金曜日の午後には全国各地のモスクで男性信者が礼拝に出席します。かなり密集した状態で祈りを捧げるため、新型コロナの感染拡大を抑えるためにはこの礼拝を当面中止するよう勧告される可能性は高いのではないかと思います。
こうした制限は、国内の他の宗教にも影響を与えることになると見られます。数日前にマレーシア当局は250人以上の集まりを禁止しました。一方、東マレーシアのサラワク州政府はさらに厳しい50人以上の集会を無期限延期するよう勧告しています。今後このレベルの厳しい人数制限が課されるなら、イスラム教徒だけではなく、クリスチャン、仏教徒、ヒンズー教徒など各宗教の集まりや行事に大きな影響が出ることは避けられないでしょう。
活動制限令 (MCO) により、3月18日よりすべての大勢が集まる集会・行事は禁止、宗教施設は閉鎖されます。
商業施設の閉鎖
マレーシア人はとにかくショッピングモールが大好きです。そのため、感染を広げないためには人が集まる大型商業施設やスタジアム、劇場、映画館、テーマパークなどが閉鎖される可能性は低くないと思います。
ただ観光客が相当減っているからか、現在はKLCCなど首都圏のショッピングセンターは週末でもかなり空いている状態で、施設を閉鎖する緊急性は全国一律ではありません。またマレーシア国内の経済を考えると、商業施設を閉鎖した場合に補助金なども含め国としてどれだけ耐える体力があるかも問題になるでしょう。中国、またはイタリアやフランス、スペインのような状況にならない限り、どこまでを閉鎖するのか線引きが難しい判断になりそうです。
活動制限令 (MCO) により、3月18日より日常生活に不可欠なサービスを提供する業種を除き店舗・オフィス、商業施設が閉鎖されましたが、5月以降は条件付き活動制限令 (CMCO) の施行により、感染防止策を取った上で大部分の業種の営業再開が許可されています。
国境管理の強化
マレーシア政府は、今のところ国内主要空港における外国からの入国規制をそれほど強く実施していません。(中国も湖北省を含む3つの省以外からは入国できます。) ただし今後事態がより深刻になれば、さらに多くの国や地域を入国禁止リストに入れることも十分考えられます。
またマレーシアは、ジョホールバル (JB) とシンガポールとの国境で毎日数十万人もの出入国があります。状況次第では、(マレーシア側というよりも、現段階ではシンガポールにとってのリスクですが) この国境の出入国に何らかの制限が加えられる可能性もあります。ただ、相当数の両国民がお互いの国で就労して行き来している現状を考えると、この国境を封鎖または入国制限するならどちらも甚大な影響を受けることになり、ここに手をつけるのはいわば最終手段ではないかと思います。
3月18日にはシンガポール政府も、3月20日夜11時59分よりすべての入国者に対して14日間の自宅待機措置 (SHN) ならびに確保した待機場所の申告 (宿泊施設の場合は14日間の予約証明が必要) を求める措置を実施すると発表しました。(参照 シンガポール保健省 (英語):”ADDITIONAL MEASURES FOR TRAVELLERS TO REDUCE FURTHER IMPORTATION OF COVID-19 CASES“)
3月20日、マレーシア・シンガポール両国政府は、ビザを持つマレーシア人がシンガポールでの就労を再開できるよう合意しました。マレーシア政府は外国でのビザを持つマレーシア人の出国を条件付きで許可、シンガポール政府も一時的な宿泊施設の提供とマレーシア帰国前の検査措置を実施するとのこと。(参照―The Star (英語):”Malaysians to resume work in Singapore“)
都市の封鎖・移動制限
現状を見ると、マレーシアにおいて感染封じ込めはすでに失敗しており、今後は感染の抑制 (被害軽減) とともに今ある医療のキャパシティーを重症者に振り分けていくことが必要となります。それに伴い、感染者のうち無症状または軽い症状の場合は自宅待機や医療施設以外での隔離といった措置を取らざるを得ません。
この場合、人の移動が続くことが感染抑制の最大の障害となるため、不要不急の外出禁止を基本とする何らかの移動制限がかけられる可能性はあります。軽い制限であれば外出の自粛を呼びかけ、厳しい制限の場合は日常生活に不可欠な買い出し等以外の外出禁止令といったところでしょうか。ただし、軍を使った封鎖に慣れている中国やアメリカ、タイといった国とは異なり、マレーシアで短時間に都市へのアクセスを完全に遮断するのは簡単ではないはずです。できるとすれば、政治の中心であり官庁街のあるプトラジャヤや金融関係が集中するKL中心部の一部区域の封鎖、また南北高速道路でのチェックポイント設置ぐらいでしょうが、これまでの経緯を見ていると国境閉鎖や国内の厳格な移動制限は取らないのではないかと思います。
活動制限令 (MCO) により、外出は必要な用事に限るよう勧告されています。
その他詳細については、当ブログの記事「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの活動制限令について分かっていること」をご参照ください。
ちなみに、マレーシアではセランゴール州の感染症指定病院であるスンガイブロー病院 (Hospital Sungai Buloh) を、患者が一定数増えた段階で丸ごと新型コロナの感染者対応に特化させましたが、国内医療機関のキャパを広げるために他の病院でも同様の措置が取られる可能性は高いでしょう。
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まとめ
本日 (3月15日) 夕方に明らかになった感染者数の急増はマレーシアの地元コミュニティーに大きな衝撃を与えており、明日以降再びパニック買いなどが起きる可能性もあります。また、件のモスクでの集会の参加者は全国に散らばっており、その中に感染者がいた場合 (相当数いることはもはや間違いなさそうですが)、そこを起点としたさらなる感染の拡大も予想されます。
(2020年3月20日:追記) モスクの集会参加者の中には不法滞在の外国人労働者も少なからずいたようですが、保健当局は入国管理法違反で逮捕されることを恐れて現在も医療機関を受診していないそれら外国人に対し、「逃げるのではなく、とにかく検査を受けるように」と呼びかけています。(参考―The Star (英語):”MCO: Food trucks told to cease operation“)
当然ながら検査を受けに行けば不法滞在であることはバレますし、後から検挙・強制送還される可能性は高いでしょう。そのため、たとえ発症しても軽症であれば、捕まるリスクを冒して医者に行くよりは治るまで自分で何とかしようと考えるでしょうし、まして症状がなければ自ら進んで検査に行く不法外国人労働者などいないはずです。こういうのが感染対策では一番厄介なケースと言えます。
今後しばらくは感染者数の急増で様々な情報が錯綜することも考えられますが、現地在住の皆さまはどうか落ち着いて行動し、基本的な衛生習慣を徹底するとともに真偽の分からない情報を転送したりされないよう十分ご注意下さい。
(2020年3月20日:テキスト追加・修正)