トラベルガイドを見ると、必ずと言っていいほど「マレーシアに行ったらぜひ飲みたい」といったキャッチフレーズと共に紹介されているホワイトコーヒー。インターネットで「マレーシア コーヒー」と入れて検索すると、これでもかというほどホワイトコーヒーの情報ばかりヒットします。
ホワイトはブラックの対極に位置する色として、「ブラックチョコ vs ホワイトチョコ」、「ブラック企業 vs ホワイト企業」のように、見た目や中身が正反対のものを表す際に白黒のペアとして使われます。そうなると、「ブラックコーヒーに対するホワイトコーヒーって一体どんなの?」という疑問がわいてきます。名前だけ聞くと、ミルクのように「白い」というイメージが脳内で強調されがちですが、実物はカフェオレと大して変わらないような色をしています。
では、なぜ「ホワイトコーヒー」と呼ばれているのでしょうか?
<ホワイトコーヒーという名前の由来>
ホワイトコーヒーという名前になった理由については、「地元で一般的なコーヒー(コピ)と比べると、何となく白っぽく見えるから」とか、「焙煎が浅いから」、「ミルクが入っていて味もクリーミーだから」などと色々な説明を目にします。しかし、「ホワイト」というのは色やミルクのことを言っているわけではないというのが大方の意見です。
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ホワイトコーヒーのことを中国語では「白珈琲」と表記しますが、この「白」という文字から本来の意味が推測できます。
例えば、日本語にも白という漢字を使った「白湯(さゆ)」という言葉がありますし、混ぜご飯に対して「白ご飯」という言い方もあります。どちらも色に注目しているわけではなく、単語の中に「白」という文字が入ることで、お湯やご飯以外に「何も入っていない」という意味が含まれるようになります。「白珈琲」という中国語の言葉も、基本的にこれと同じ考え方だというわけです。
しかし、ホワイトコーヒーは正直「何も入っていない」とは言い難い飲み物です。豆をローストする時にはマーガリンを加えていますし、お店で提供する時にも練乳や砂糖を入れて甘くするのが基本です。ただ、ローストということに限って言えば、地元で飲まれている一般的なコーヒーよりは加えているものが少ないということから「白珈琲」という名前がつき、そして英語では「ホワイトコーヒー」と呼ばれるようになったのだろうと言われています。
<ホワイトコーヒーの元祖ってどのお店?>
食べ物にしても飲み物にしても、高い人気を誇るようになった新メニューにつきものなのが、「どこが発祥の店なのか」という問題です。中には長崎の皿うどんのようにルーツが明確なものもありますが、いつ頃から食されるようになったのかはっきりしなかったり、「ウチが元祖だ」というお店が複数存在したりすることも稀ではありません。
ホワイトコーヒーについて確実に分かっているのは、19世紀の後半から20世紀の初頭にかけてマレー半島に移住してきた中国・海南島出身の移民が、当時スズの採掘で全盛期だったイポーという街で営んでいた飲食店で提供していたコーヒーが発祥だということです。欧米式に淹れたコーヒーの味にはなじめなかった先人たちが、様々な工夫をこらして自分たちが飲みやすい味へと変えていったのでしょう。
さて、どこが一番有名な店かと聞かれれば、「オールドタウン・ホワイトコーヒー(OldTown White Coffee)」だという答えに異論はないはずです。現在では国内にとどまらず海外10カ国以上でビジネスを展開するマレーシア最大のコピティアムチェーンとなっており、あまりにも名前をよく聞くためここがホワイトコーヒー発祥の店だと思っている方もいるようですが、実はそうではありません。
インスタント飲料として「オールドタウン」ブランドが生まれたのはわずか20年ほど前の1999年。そして、このブランドを生み出した「南香茶餐室 (Nam Heong)」というレストランが創業したのは1958年ですが、それよりさらに20年ほど前の1930年代後半には、「新源隆茶室 (Sin Yoon Loong)」などの老舗コーヒー店がすでにイポー旧市街で開業しています。
下の写真は「南香茶餐室」本店です。ここは麺類などを提供する屋台も入っており、コーヒーと一緒に食事をしっかり食べられます。特に店内のオーブンで一日中ひっきりなしに焼き続けているエッグタルトは超人気商品。ホワイトコーヒーのお供としても、焼き立ての湯気が立ち上るエッグタルトは最高です。
そして、ここから道路を挟んだ真向かいにあるのが下の写真にある「新源隆茶室」です。ここはさらに老舗のコピティアムで、コーヒーの風味も一般的なホワイトコーヒーよりやや濃いめ。通常のコピよりもまろやかながら適度な苦みや酸味もあり、今のホワイトコーヒーのいわば原型のような味といえます。ちなみに、「新源隆茶室」はあまり食べ物を提供していませんが、地元の人が言うにはここでコーヒーを飲みながらお向かいの「南香茶餐室」から食事を頼んでOKなんだとか。お互い競争相手とはいえ、うまく共存している様子がうかがえます。
イポーの地元の人たちはそれぞれにお気に入りのコピティアムがあり、お店ごとに固定客がついています。実際、上に挙げた二つのコピティアムで飲んでみましたが、どちらのコーヒーが美味しいかと聞かれてもどちらにも個性があって美味しいとしか言えません。結局どの店がホワイトコーヒーの元祖なのかというのは調べてもはっきり出てきませんが、恐らくは同じ通りにひしめくこうした老舗コーヒー店の中で、ほぼ同時期にホワイトコーヒーの原型ができた後に現在の形へと発展してきたというのが真相ではないかと思います。
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<ホワイトコーヒーの楽しみ方>
もちろん、「ホワイトコーヒーという名前を最初に使ったのはウチだ」とか「味を今のように改良したのはウチの店だ」「いやいや、ホワイトコーヒーをここまで有名にしたのはウチだ」など、それぞれの店ごとに言い分はあると思います。しかし、どこがホワイトコーヒーの元祖かという点に関しては、なぜかどの店もお互いにあまり強くは主張していないように見受けられます。はっきりと言えるのは、店が持つ歴史の長さに多少の違いがあったとしても、どの店にも苦労して作り上げてきた味があるということです。
インターネット上では「オールドタウン」の名前ばかり目にしますが、ホワイトコーヒーは何もここだけではありません。みなさんも機会があれば、100年前にマレー半島にやってきた南洋華人の歴史に思いをはせながら、色々なホワイトコーヒーを飲み比べてみてください。そして、できればコーヒーと相性ばっちりのカヤトースト#やハーフボイルドエッグ、もしあれば「燒肉*」といった一品もぜひ一緒に楽しんでください。
#カヤとはココナッツミルクから作られたペーストのこと。甘くてカスタードクリームに近い風味と食感。色は緑っぽいものから茶色いものまで、作り方によって違った種類がある。
*読みは「やきにく」ではなく「シウヨク」。塩味で皮はパリパリ、中はモチモチに仕上げられた広東風ローストポーク。激ウマ。豚肉なので、ムスリムが来るお店では扱っていない。
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<お土産におすすめのインスタント>
日本人にお土産として重宝される「オールドタウン・ホワイトコーヒー (OldTown White Coffee)」のインスタント (3 in 1)。インスタントと言うと味がイマイチのように聞こえるかもしれませんが、このホワイトコーヒーはインスタントとはいえコピティアムで飲むものにかなり近く仕上がっています。
小さじ1~2杯程度しか入れない日本のインスタントコーヒーと比べると、最初はあまりの粉の多さに「こんなに入れるの!?」とびっくりするかもしれません (カップの3分の1が粉で埋まる感じ)。でも、これがお湯を入れるとちゃんとあの濃厚なホワイトコーヒーになるのでご心配なく。確かに甘いですが、現地でホワイトコーヒーを飲んだことがある方ならきっと懐かしくなる味です。
日本での一番人気はやはりヘーゼルナッツ (Hazelnut) フレーバーのようですが、個人的には「キビ砂糖 (Natural Cane Sugar)」のフレーバーもオススメです。オリジナルのものよりも少し軽いサトウキビならではの甘さが味わえるので、オリジナルのフレーバーではちょっと甘すぎる、という方にぴったりだと思います。サトウキビと聞くと「相当甘い」という印象を持っている方もいるようですが、砂糖よりだいぶ柔らかい甘さで美味しいですよ。
もちろん現地で買うのが一番お得ですが、最近は日本のAmazonでもちらほらと「オールドタウン・ホワイトコーヒー」を見かけるようになりましたね。扱っているフレーバーの種類にはやはり限りがあるようですが、興味がある方はぜひお試しを。
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[参考]
櫻田涼子. 移民社会におけるノスタルジア: 南洋華人の事例を中心に. 2014年度京都大学南京大学社会学人類学若手ワークショップ報告論文集. 2015, p.159-160
(2017年12月4日:レイアウト修正)
(2018年12月29日:タイトル修正)
(2019年2月19日:見出し修正)
(2020年6月21日:テキスト追加・修正)