<強いニオイの食べ物>
どんな食べ物や飲み物であっても、そこには個人的な好みというものが存在します。特に香りが強い食材の場合、「大好き or 大キライ」という極端に分かれることも少なくありません。
例えば、マレーシアやタイにはドリアンというフルーツがあります。ガイドブックなどを見ると、「果物の王様」というかなりポジティブな表現もあれば、「悪魔のフルーツ」「禁断の果物」「世界一臭いフルーツ」などなど、数々の恐ろしい別名もつけられています。実際、ドリアンが放つその強烈なニオイのために、持ち込み禁止としているホテルも数多くあるほどです。
このドリアン、現地の日本人の中でも評価は真っ二つに分かれています。地元の人がドン引きするぐらい“ドリアン愛”全開の人もいれば、「スーパーでドリアンを売っているセクションには絶対近づかない」という人もいます。
一方日本でも、”くさや”のように強い臭気で知られた食べ物があります。ドリアンと同様、好きな人にとっては醍醐味ともいえるその香りも、ニガテな人にとっては苦痛と感じられることでしょう。
<コーヒーの香りは文化を超える>
一般的に言って、コーヒーを飲む時にはお茶やジュースなど他の飲み物よりも強い香りを感じます。もちろん、アールグレイのようなフレーバーティーなど、しっかりとした香りを持つものもあります。それでも豆を挽いた時やコーヒーを淹れた時にあたり一面にただよう香りは、相当ニオイに鈍感な人でも気づくほど強い主張を持っています。
「コーヒーが好きかどうか」という質問に関して言えば、大好きで毎日飲むという人もいれば、あまり好きじゃないという人、寝られなくなるので好きだけど飲めない人、ミルクを入れれば飲めるけどブラックは無理という人など、人それぞれ様々な嗜好があります。しかし、「コーヒーの香りが好きか、キライか」という質問においては、多くの人が「香りは好きだ」と答えるのではないでしょうか。(※ 「缶コーヒーの香りが苦手だ」という方は一定数おられるようです。私もコーヒーは大好きですが、いわゆる昔ながらの缶コーヒーの香りが車内に充満していると、かなりの確率で車酔いになります。)
みなさんも、自宅で新鮮なコーヒーを淹れている時に誰かが訪ねてきて、「コーヒーのいい匂いがしますね」と言われた経験があるかもしれません。しかし、いざコーヒーをすすめると、「すいません、じつはコーヒー飲めないので・・・」という反応が返ってくることも珍しくないのです。
不思議なことに、この点に関しては人種や地域が違っても同じ傾向が見られます。私の知る限りでは、日本人でも、欧米人でも、アフリカ人でも、中東出身者でも、なぜか「コーヒーの香りがキライだ」という人はあまりいないのです。食文化も違えば育った環境も違う、それなのにコーヒーの香りはそうした壁を超えて受け入れられているというのは、とても興味深いことだと思います。
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<誰からも好まれる「香り」>
コーヒー以外にも、うなぎの蒲焼や焼き鳥といった食べ物も、味の好き嫌いは別にして香りそのものが好まれる食べ物の一例です。私自身、うなぎはそれほど好きではないのですが、街を歩いていて何処からともなく漂ってくる蒲焼の香りには正直食欲がそそられます。もちろん、コーヒーのように世界中で消費されている食べ物ではないので一概に比べることはできませんが、蒲焼や焼き鳥の香ばしいニオイというのは、コーヒーの香りと同様に文化を超えて好まれるものなのではないかと思います。
この点を化学的に言うと、「タレや肉汁、またコーヒーの生豆に含まれる糖などがメイラード反応という化学変化を起こして生まれる香気成分というのは、多くの人に共通して好まれる香りだ」というところでしょうか。(ちなみに缶コーヒーの場合、保存期間などを考えると焙煎による自然なものでは香りが弱すぎるため、それを補うために香料を加えている製品が少なくありません。「缶コーヒーの香りは苦手だ」と感じる方は、この人工的につけられた「コーヒーの香り」が原因になっていることも考えられます。)
他人とのコミュニケーションにおいても、香りと同じようなことが言えるかもしれません。実際に味わってもらえなかったとしても、その香り自体は喜んでもらえる食べ物のように、たとえ自分の考えには同意してもらえないとしても、いわばその「香り」だけでも受け取ってもらいたいと願って発信する言葉―そんなコミュニケーションこそが、文化や価値観の違いを超えて伝わっていくんだろうと思います。
(2017年10月9日:画像追加)
(2017年11月17日:表記修正)
(2021年3月5日:テキスト修正)