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マレーシア英語って何?
日本人にとって「英語=一つの言語」と思いがちですが、国や地域によって訛りや単語、また文法まで様々に異なります。もちろん英語の正しい文法というものはありますが、日常の会話で使用される際には本来の文法からかなり変化していたり、現地語と混ざった形で話されたりしている場合もあります。また場所によってはそれが母語として定着し、「ハワイ・クレオール英語」のように言語の一つとして分類されるようになったところもあります。
そのようないわば「クセの強い英語」の例として、シンガポール英語のことを指す「シングリッシュ (Singlish)」という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。それに比べて少し知名度は劣りますが、実はシンガポールのお隣の国マレーシアでも「マングリッシュ (Manglish)」と呼ばれる独特の用法の英語が話されています。
マレーシア英語というのは、ざっくり言うとマレー語の影響を大きく受けつつ中国語も混ざったピジン英語 (英語方言) の一種です。多くの共通点はあるものの、主に中国語の影響を強く受けているシンガポール英語とは少し趣が異なります。マレーシア英語は特に都市部では日常的に使われていますが、いわゆる日本の学校の教科書で習った英語とはかなり違うので、初めて耳にすると戸惑うかもしれません。
またマレーシアに住んでいる外国人の中でも、マレーシア英語の微妙な使い分けについてはイマイチよく分からないという方は少なくありません。この記事では、地元でよく使われている表現とそれぞれのニュアンスの違いについてお伝えしたいと思います。
「Can (キャン)」の使い分け
マレーシアで一番よく耳にする英単語の一つが「Can」で、ほぼ同じ意味を持つマレー語の「Boleh (ボレ)」という単語に準じた用法で使われています。アメリカのオバマ前大統領の決め台詞 “Yes, We Can.” は日本でも有名になりましたが、ほとんどの方は「○○できる」という文に使う英単語「Can」の意味はご存じでしょう。しかし、マレーシア人はこの語を文章としてではなく単独で用い、それでいてちゃんと微妙なニュアンスを使い分けたコミュニケーションをしているところが特徴です。
「Can」はそれだけで意味が成立する
「できるか、できないか」という返事をする時に、ほとんどのマレーシア人は “Can.” または “Cannot.” の単語一つで済ませます。英語圏の人は主語も何もないこの返答を聞くと最初はかなり違和感があるそうですが、日本語でも「これ、修理できますか?」という問いには「できますよ」の一言で成立しますから、日本人の感覚としては比較的すぐに馴染めるでしょう。
「Can」の回数に注目しよう
「なんのこっちゃ?」と思われるかもしれませんが、これはマレーシア英語のコミュニケーションにおいてはとても重要なことです。
例えば、何かの修理を頼んだ時に ”Can, can, can.” と3回言われたなら、それはその人が問題を確実に直す自信と技術、そして経験があるということです。訳すと「これならよく知ってますから大丈夫ですよ。任せてください!」という意味合いです。これが2回でも「できますよ。問題ありません」といった感じになりますが、回数が多いほうがより確実度が増すと考えてよいでしょう。 (ただし普通は3回がMAXです)
もしこちらの依頼に対して1回だけ “Can.” (キャン) と言われたなら、どういうニュアンスになるのでしょうか? これは幾つか異なる状況が考えられますが、まず一つは、あまり感情が入らず事務的に「はい、できますが」という意味で使われる時です。役所関係や大規模店舗のレジなどではこうした反応も珍しくありません。
また、「できることはできますが・・・」という文脈で使われることもあり、その場合は「But」という言葉と共にやや否定的な理由が続きます。例えば、”Can. But I need to check the stock first.” といった使われ方で、意味としては「できますけど、まず在庫を見てみないと分からないので」となります。
さらに、少しの沈黙の後に “… Can.” と言った場合だと、「自分にとって負担はあるけど、まあ何とかやりますよ」というようなニュアンスになります。スケジュール的あるいは予算的には厳しいけど、やり繰りすれば何とかなりそうな場合などに使われます。
ちなみに単語を長く引き延ばして「キャーン」と発音した場合は、例え1回だったとしても「もちろんですよ。できるに決まってるじゃないですか」という自信たっぷりの意味を含むようになります。
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質問も「Can」
「○○できますか?」という質問も、“Can?” というたった一言でOK。質問らしく尻上がりに言えばいいだけです。つまり “Can?” で尋ねて “Can.” で答える。慣れればこれほど便利なものはありません。ただ現地に長く住んでいてマレーシア英語に慣れてしまった欧米人が、母国に帰国した際にもその癖が抜けずに “Can?” とやってしまい、家族から「あなたのそのひどい英語、何なの!?」と白い目で見られたという話もよく聞きます (笑)。マレーシアではコミュニケーションの助けとなる表現とはいえ、欧米系の英語ネイティブ相手に使うと、逆に違和感を覚えられる可能性が高いので気を付けましょう。
文字で読んでいるだけでは分かりにくいかもしれませんが、声のトーンや顔の表情なども合わせて観察すれば、上にあげたようなニュアンスを掴むのはそれほど難しくないはずです。
「Cannot (キャンノット)」の使い分け
「Cannot」の意味は、当然「できません」です。マレーシアでもその意味で使われることは多いですが、実はこの「Cannot」、マレーシア英語においては「できない」のではなく、「やりたくない」とか「面倒くさい」という時にも頻繁に使われています。そのため、この言葉が文脈の中で持つ微妙なニュアンスを感じ取ることができれば、相手が本当にできないものをプッシュしすぎて怒らせたり、逆に相手はただ言い訳しているだけなのにこちらがあっさり引き下がってしまったりするのを避けられるでしょう。
語尾に注目しよう
“Cannot, cannot.” (キャンノッ、キャンノッ) と2回繰り返して言われた場合は、結構な確率で本当にダメな時が多いようです。「いやいや、無理だから」とピシッと言い切られている感じですね。また、1回でも「キャンノーッ」と「not」を伸ばして言った場合にはダメだという強い意思表示になります。
ただし、“Cannot lah.” (キャンノッ ラー) と語尾に「ラー」がついた場合には、少し事情が違ってきます。この語尾の「ラー」というのは、それが付くことによって言外の意味を相手に訴える働きをします。ある面では、日本語の終助詞 (「よ」「ね」など) が持っている機能にも近いかもしれません。
例えば上にあげた “Cannot lah.” の場合、最後の「ラー」が下り調子で弱めだと「うーん、ちょっと難しいなぁ・・・」とか「もうこの辺で勘弁して下さいよ・・・」といった意味が言葉の裏に隠れており、きっぱりとした拒絶とはニュアンスが異なります。この場合、まだ交渉の余地があると考えてよいかもしれません。逆に語尾の「ラー」を上がり調子で強く言われた時には、「ダメだと言ったらダメだ。いい加減にしてくれ」といった苛立ちが含まれていますので、この状態でこちらの要求をごり押しすると相手を怒らせてしまうでしょう。
まとめ
不動産や車、また家電製品から服に至るまで様々な商品の価格、仕事の締切日、家の工事や配達の予定、さらには交通違反等の反則金の値引きまで、マレーシア人は色々な場面でしっかりと交渉をします。やるべき交渉をしないと、相手の言うなりに高い値段を払うことになったり、どんどん納期が先延ばしになったりといった不利益を受けるからです。
外国人としても、そうした交渉で言うべきことはしっかり言うと同時に、やり過ぎて相手との関係を悪くすることがないようバランスを取りながら、マレーシア英語のニュアンスをくみ取って円滑なコミュニケーションを図りたいものです。