マレーシアやシンガポール、インドネシアなどの国々では、毎年7月から8月になると今年のヘイズがどれほどの規模になるかが話題に上ります。
では、2020年は現時点でどのような予想となっているのでしょうか?
2020年後半の気候予想
まず、ヘイズの主要な発生源となっているインドネシアのスマトラ島ならびにカリマンタン島の気候予想ですが、2020年中期は乾季としては平年より雨の多い気候となるだろうということで、森林火災が一気に広がる原因の一つである極度の乾燥状態にはならないと見られています。また、新型コロナウイルスの感染に伴い商業活動が控えめになっていることから、焼畑などによるホットスポットの数は例年よりも減るのではないかとも言われています。
このように気候については比較的明るい見通しがありますが、一方で別の要素のためヘイズへの警戒が必要だと考えられています。それは、新型コロナの感染拡大による二次的、三次的な影響についてです。
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新型コロナウイルスがヘイズ対策に与える影響
まず、インドネシア政府はこれまで環境対策に一定の予算をつけてきましたが、新型コロナの感染対策ならびに落ち込んだ経済を支えるための支出に多額の予算が必要となっており、どうしても医療・経済分野を最優先とせざるを得ない状況です。報道によるとすでに環境・林業省の予算が削減されたとのことで、結果として今年のヘイズ対策に手が回らない可能性もあると見られています。
ピート (泥炭) 土壌で起こる森林火災においては、地面の下で火災が広がらないよう地下水の水位を保つ工事をしておくなどの予防措置が重要となりますが、新型コロナの影響でフィジカル・ディスタンスを取る必要があるためそうした工事が今までのようには行えません。政府関係者が村々や小規模農家を個別に訪ねて行っている、森林火災の危険性についての啓もう活動についても同様です。さらに、ヘイズ対策としては違法な焼畑を行っていないかどうかの定期的なパトロールも欠かせませんが、監督する立場である肝心の環境省はすでに予算を削られており、これまでのようなパトロールはできないだろうと見られています。
こうした点を考えると、「比較的雨の多い年になりそうだから大丈夫だろう」と決して楽観視は出来ない状況であることが分かります。インドネシアのジョコ大統領は「新型コロナの対策に追われているとはいえ、森林火災の対策も急務であることを忘れてはいけない」と発言していますが、インドネシア政府が引き続き効果的なヘイズ対策を取れるかどうかが大きなカギとなりそうです。
個人でも総合的なヘイズ対策を
ここ最近はクアラルンプール周辺でもヘイズが観測されています。マレーシア政府の発表数値ではAPI指数は「やや不良」レベルの80前後となっていますが、IQAirやAQICNなどの民間サイトでは計測値が「不健康」とされる100を超えており、実際外を見ても明らかにヘイズだなと分かるレベルで視界が低下しています。
このところ新型コロナウイルスに注意が集中しがちですが、ヘイズも呼吸器系に負担を与えるものであり、特に高齢者や喘息などの疾患を持っている方にとっては大きなリスクとなります。この両者が組み合わさることで予想を上回る健康被害が出る可能性もあると危惧されており、マレーシアやシンガポール在住の方にとって、これから数か月はヘイズの状況にも十分注意が必要です。
新型コロナの拡大を防ぐという意味では有効な各種マスクですが、超微粒子のPM2.5を防ぐヘイズ対策としてはN95マスクかそれ以上の規格でない限りあまり効果がありません。ただし、医療関係者のマスク確保ですら十分とはいえないこのご時世、ヘイズのためだけにN95マスクを買うのは難しいでしょう。もし今後ヘイズの状況が悪化した場合は、数値が高い日には外出を控える、部屋で空気清浄機を使用するといったマスク以外の総合的な対策が求められることになりそうです。
[参考資料]
(2020年7月27日). ”Why Covid-19 could complicate haze prevention”. The Straits Times. URL: https://www.straitstimes.com/opinion/why-covid-19-could-complicate-haze-prevention (参照日:2020年8月23日)