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【マレーシア】在住者が見た:ロックダウンでも感染拡大が止まらない現状(2021年7月)

投稿日:2021年7月15日 更新日:


Empty road between Malaysia & Singapore

往来の途絶えたマレーシアとシンガポールの国境 by Lionel Lim on flickr

ロックダウン → 逆に感染増加

マレーシア政府は、2021年6月から前年3月に続く2回目のロックダウンを実施しました。7,700名以上だった新規感染者数 (7日間平均) は、ロックダウン開始とともに一日あたり100名から200名ずつ順調に減少していきましたが、当初予定されていた2週間程度ではさすがに感染拡大を抑え込んだと言えるまでは下がりません。大半の人が予想していた通り、ロックダウンは1か月に延長されます。

6月21日には新規感染者がロックダウン中では最低となる4,600名台まで下がり、感染拡大の指標となる基本再生産数 (R0) も一時は0.90まで低下しました。ところが、その辺りで減少傾向は止まり徐々に増加に転じます。6月末になると、どの指標を見ても明らかな拡大傾向を示すようになりました。当然ながら、ロックダウンは7月にかけて再延長されます。

7月に入ると感染拡大のスピードはさらに加速。7月9日にはこれまでで最高となる9,180名の新規感染者を記録、翌日 (7/10) にはさらに多い9,353名、その3日後 (7/13) には初めて1万を超え11,079名、そして翌14日には11,618名15日には13,215名と感染増加は止まるところを知らず、この記事を書いている時点 (2021年7月15日) では感染のピークはまだ当分先だろうと思われる状況です。

しかし、ロックダウンというのは本来は感染対策における最終手段のようなもので、いわば劇薬だけに大抵の場合それなりの効果が数字にも表れるものです。しかしマレーシアの場合、1か月半もロックダウンしているのにむしろ感染が増えているのです。

こうした状況は世界を見てもあまり例がないのではないかと思いますが、厳しいはずのロックダウンによる制限下にもかかわらずなぜ感染が拡大しているのでしょうか?実際に現地で見聞きしたり肌で感じたりしていることも含め、その理由をいくつか考えたいと思います。

ロックダウンのはずなのに、人も車も多い?

前回のロックダウンはどんな感じ?

2020年に実施された1回目のロックダウンは非常に厳しいものでした。外でジョギングしているだけでも罰金や逮捕(コンドミニアム敷地内でのエクササイズも、外からチェックした警察が管理事務所に警告)、外出は必需品の買い出しに限り各世帯から1名のみ許可、生活に不可欠なごく一部の業種以外の在宅勤務などが徹底されていました。

少し外出すると至る所に警察・軍の検問所があり、どこからどこに行くのか移動の目的について詳しく質問されるだけでなく、自宅から半径10km以内での移動を証明する免許証や光熱費領収書などを見せるよう求められたり、時には本当に買い物に行ったのかどうかチェックするためトランクを開けさせられるなど、街全体に相当ピリピリとした空気が漂っていました。

今回のロックダウンはどうか?

Holding the sing of Lockdown

by Fathromi Ramdlon on Pixabay

今回も建前上は同じ“都市封鎖”ですが、雰囲気はかなり違います。もちろん、一部にはロックダウンに慣れたからというのもあるとは思いますが、それ以上に制限の厳しさも大きく異なっています。

まず、ロックダウン中に「営業を許可される業種」というのが政府により定められており、食料品を含め日用品を扱う業種、金融やインフラに関わる業種は営業を続けられるようになっています。ただし、それらをサポートする業種についてはどこまで許可するのか、という線引きは簡単ではありません。今回はその対象が広がりすぎている印象があります。さらに、許可されていなくても制限を破って営業している会社や工場もあり、毎日のように「〇〇の工場が摘発された」という報道が目につきます。

移動制限についても以前ほどは厳しくない、というのが実感です。例えば、前回同様に州間や地区間の移動は禁止されていますが、特に首都圏では数えきれないほどの道路でつながっている境界線すべてをチェックすることは不可能です。前回のロックダウンで境界を超える移動禁止に強制力を持たせていたのが市内のあらゆる所に設置された軍と警察による検問でしたが、今回は(少なくともKLと近郊地区では)明らかに検問の数が減っています。検問ポイントが少なければ、地図アプリ等で検問だと思われる不自然に渋滞している箇所をチェックして迂回することも可能で、実際そのようにして制限を破って動き回っている人も少なくありません。

また、業務に関連して発行された移動許可証を、本来の目的以外の私的な用途で使っている人も大勢います。許可証さえあれば、警察に止められても何とでも言い逃れできるというわけです。ただ友人に会いに行くだけだったとしても、「顧客と必要な商談がある」と言えばそれが本当か嘘かなど相手には分かりません。

コンドミニアムのような集合住宅であれば、ロックダウン中は外部からのビジターを立ち入り禁止としているところも少なくありませんが、リンクハウスや一戸建ての場合はそこまで厳しくないことも多いようです。実際、ロックダウン中に何人もの地元の知人から「近所の家が友だちや家族を集めて大きなパーティーをやっていた」といった話を耳にしました。

また、コンドミニアムでも、敷地内で住民同士が交流することをあまり厳しく取り締まっていないところもあります。筆者の自宅近くの複数のコンドミニアムでも、毎日のように敷地内で何家族かが集まって子どもを一緒に遊ばせている様子を目にします。当然誰もマスクをせずにお互い至近距離で大声で話したり笑ったりしており、誰か一人が感染していた場合は確実にそこから広がる原因となるでしょう。警察も屋外で同じ事をしていれば警告や罰金を科すでしょうが、個人宅やコンドミニアムの敷地内でのSOP違反については、よほどの場合でない限りチェックしません。

いずれにしても、上に挙げたようなさまざまな理由で前回のロックダウンに比べて市中の車や人の数が断然多い、というのは肌感覚として感じます。人の流れが多い以上、感染拡大が止まらないのも不思議ではありません。

マレーシア政府の大規模ワクチン接種

どのワクチンにするか選べない?

Holding vaccine vial

by Spencer Davis on Pixabay

現在、マレーシア政府はワクチンの大規模接種に大きく力を入れており、全国各地に設置された特設会場で1日あたり40万人を超える接種を行っています。これは、人口比で考えると現時点で日本よりも2割強多いぐらいの計算となります。

マレーシアで現在承認されているのは、ファイザーアストラゼネカ、そしてシノバックの3つです。ただし、ファイザーは医療従事者などフロントライナーに優先接種されるため、一般接種に回される量は相対的に少なくなっているようです。アストラゼネカは日本からも100万回分供与されたという報道がありましたが、全体の数量としては後の2つより少ないと見られます。

マレーシアのワクチン接種の予約は、「MySejahtera」アプリを通じて行います(ただし、アストラゼネカは別登録)。アプリを通してワクチン接種希望を登録すると、後日このアプリ上で割り当てられた予約会場と接種日時が通知されるようになっています。このシステム自体はとても便利なのですが、問題はどのワクチン(ファイザーまたはシノバック)を受けるか自分で選べないという点です。

ワクチンを選べないと在住外国人が困る理由

これがファイザーとモデルナのどちらかは選べない、ということであればまだ分かりますが、ファイザーとシノバックだと、かたやmRNAワクチン、もう一方は不活化ワクチンと体に作用する仕組み自体が大きく異なります。また、公表されているデータを見る限り、この2つのワクチンの有効性にも無視できない違いがあるのも否定できません。さすがにこの2つをランダムに接種しています、と言われると「ちょっと待てよ」と一旦考える人が出ることは十分理解できるでしょう。

特に、隣国シンガポールではシノバックを受けた人をワクチン接種者とみなさないことを発表、またインドネシアやタイでもシノバックの効果に疑問があるとしてファイザーなど欧米製ワクチンの接種を検討していると報道されるなど、シノバックを巡る東南アジア各国の動きを見ると余計に慎重にならざるを得ません。(参考―ロイター:「シンガポール、シノバックのコロナワクチンを接種統計から除外」「アングル:東南アで中国製ワクチンに疑いの目、欧米製追加も検討」)

在住外国人にとっては、特定のワクチンを受けたものの母国を含め他の国では有効とみなされない、なんていう事態は絶対に避けたいわけです。ワクチンパスポートの話が現実味を帯びてきている今、接種するのであれば母国や自分が渡航する可能性のある国で承認されているワクチンを受けたいと考えるのは当然でしょう。入国に際して、「ワクチン接種者は入国後の隔離を免除。※ ただし〇〇ワクチンは除く」といった条件が設けられることも今後十分あり得るからです。

ちなみに、当日に会場で自分の希望するワクチンではなかった場合には接種をスキップしてもよい、と最近規定が変更されたようですが、その場合は接種希望者全体の最後に戻される形となるため、再び接種日が確定するまでどのぐらい時間がかかるか分かりません。

先進国のように欧米製ワクチンを十分受け取れていないマレーシアのような国では、接種希望者が自由にワクチンを選べるようにすると特定のワクチンに希望者が殺到し、接種が中々進まないというリスクがあるのかもしれません。それでも、医療上の選択において、また“コロナ後”やそこに至る過渡期の海外渡航で障害となる可能性を考えた時に、「どのワクチンでもいい」というわけにはいかない人もいるわけです。

そんなマレーシアですが、ワクチン供給が安定する、もしくは接種が一定以上進んだ段階で今後選択肢が増える可能性はあるでしょう。

(2021年7月15日) 追記:マレーシア保健省は15日、現在の在庫がなくなり次第シノバックの接種は中止すると発表。「ファイザーを十分供給できるようになったから」ということですが、周辺国でシノバックの特に変異株に対する有効性に疑問が投げかけられている中での決定ということもあり、純粋に供給量だけの問題ではないだろうと見られています。(参考―ロイター:”Malaysia to stop using Sinovac vaccine after supply ends – minister“)

接種会場自体が感染リスクとなる可能性

Pfizer vial

マレーシア政府は経済・社会活動を再開していく上でワクチン接種率を指標の一つとしており、そのため毎日できるだけ多くの人が受けられるよう各地に大規模接種会場を設けています。しかし、その会場自体が感染リスクになっている可能性もあります。2021年7月13日には、セランゴール州シャーアラムの接種会場でスタッフ453名中204名が陽性反応を示したことが発表され、日本をはじめ各国でもニュースとなりました。(参考ーロイター:「ワクチン接種会場でクラスター、職員200人の感染判明 マレーシア」)

この報道があった際、「接種会場なんだから、マスクなどスタッフの感染対策もしっかりしているはず。恐らく検査のエラーだ」というコメントも見かけましたが、“接種会場だからちゃんとしてるだろう” と考えるのは、そもそも日本がそれだけまともな国だからです。数日前にKL市内の別の会場で接種を受けた筆者の知人は、「集団で食事をしたり、あごまでマスクを下ろしたまま会場内を歩き回ったりしているスタッフを何人も見かけた」とのこと。専門の医療従事者であれば職業柄かなり注意していると思いますが、会場のボランティアなどはそこまで衛生意識が高くない場合も少なくありません。そんなわけで、“接種会場のスタッフ内でクラスター” と報道された時も、地元市民からすれば驚くというよりは「やっぱり起こったか」という思いの方が強かったのではないかと思います。

考えてみると、ロックダウン中にも関わらず市中感染が拡大しているというのも、ワクチン大規模接種と関連が全くないとは言えないように感じます。もちろん、現在営業を許可されている業種の職場でも多少の接触があると思いますが、社会活動が大幅に制限されている中で大量の人が集まるのは接種会場ぐらいしかありません。KL中心部の大規模な会場でワクチンを受けた別の知人は、「とにかく人が多すぎる。お互いの距離も取れていないし、会場外にあふれた人たちが地べたに座り込んで飲み食いしている」と言っており、ワクチン接種を急ぐあまり安全面がおろそかになっている部分は多少なりともあるはずです。

現在の感染者は6~8割近くが経路不明の市中感染だと言われていますが、こうした状況を見ると、接種会場を介した感染というのも少なからず起こっているのではないかと思います。

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東南アジアの中でマレーシアが最悪レベル

少し前の2021年4月から5月にかけては、インドで感染拡大が悪化した状況が世界中で報道されました。しかし、インドがその後それなりに落ち着きを取り戻したのに対し、ここに来て東南アジア各国の状況が思わしくありません。

特にここ最近で報道が増えているのが、インドネシアの感染状況についてです。6月24日に1日あたりの新規感染者が20,000名を超えてから、13日後 (7/6)に30,000名超、その6日後 (7/12)に40,000名超、その2日後 (7/14)に50,000名超と、どんどん感染拡大のスピードが加速しています。

また、タイも2021年4月ぐらいまでは1日の感染者が2ケタ台をキープしていましたが、そこからジワジワと増加。特に新規感染者が3,000名台になった6月中旬あたりから拡大ペースが速くなり、7月に入ると9,000名台まで増加しています。

純粋に感染者数だけで見るとインドネシアがかなり多く、続いてマレーシア、そしてタイという順ですが、実は人口比で考えると実はマレーシアがダントツで悪い状況となっているのです。

下の表で、この3カ国+日本の人口100万人あたりの7日間平均新規感染者数を比べてみます。(2021年7月15日現在)

国 名人 口新規感染者100万人あたりの新規感染者数
インドネシア2億7,000万41,521154
タイ6,700万8,837132
マレーシア3,300万10,305312
日本1億2,500万2,30218

以前インドで新規感染者が最高を記録した日 (2021年5月5日) でも100万人あたり300名だったことを考えると、いかにマレーシアの状況が悪化しているかが分かると思います。

今後の見込み

政府は「8月の早い時期に、全国的に国家回復計画のフェーズ2(第二段階)へ移行できるだろう」と言っていますが、地元のマレーシア人の大半は「今のこの状況見てソレ本気で言ってるの??」という反応です。

また、マレーシアは現在政治的にも不安定になっており、現ムヒディン内閣への圧力が日増しに高まっているような状況です。不安定な政治基盤では、新型コロナへの対応において一貫した効果的な政策を取るのはまず難しいと言わざるを得ません。日本も他国のことを言えませんが、政治家が足の引っ張り合いや裏工作に走り出すと、国民の安全や健康といった公衆衛生の優先順位はどんどん下がっていくのがオチです。

何はともあれ、これからの数週間がマレーシアの新型コロナ対策において非常に重要な期間となることは間違いないでしょう。制御できずに医療崩壊を招くのか、それとも何とか出口戦略を見つけられるか ―政治だけでなく一般市民の意識も大きく変わることがこれまでになく求められています。


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40代の通訳者です。
マレーシアのクアラルンプール在住。

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