今回の記事はコーヒーのネタではないのですが、現地情報としてマレーシアの交通事情について書きたいと思います。
公共交通機関が足りない
鉄道の現状
東南アジアの他の大都市と同じく、クアラルンプールも交通量が毎年増加の一途をたどっており、慢性的な交通渋滞の緩和が喫緊の課題となっています。クアラルンプール近郊では、100年以上の長い歴史を誇るマレー鉄道(KTM)の他に、1990年代後半からはLRT(軽量軌道交通)という、感覚としてはちょうど東京のゆりかもめや神戸のポートライナーのような交通機関や、市内エリアを走るモノレールなどいくつかの路線が開業してきました。
「駅から近い」は売り文句にならない
しかし、その程度の路線でカバーできる範囲というのは限られており、市民や観光客も含めた首都圏の巨大なニーズを満たすには遠くおよびません。また、この10年ほどの間にいくつもの大規模ショッピングセンターや商業エリア、オフィスエリア、住宅地などが既存の路線から離れたところに開発されてきました。そうしたエリアから鉄道やLRTを利用しようとすると、まず駅に行くためにバスやタクシーを使う必要があります。ところが、現地の路線バスは日本とは違って基本的に時刻表など存在せず、バス停で自分の目的地へ行くバスが来るのをひたすら(場合によっては1時間近く)待つというものです。ほとんどの人にとって、これではとても通勤や買い物で使おうという気にはなりません。
日本ではよく不動産のセールスポイントとして、「駅から徒歩○分」という表記を目にしますし、駅に近いかどうかが家賃や物件の価値をも左右する要素となります。しかし、マレーシアでは立地が駅に近いかどうかよりも、主要道路やハイウェイへのアクセスが便利かどうかということの方がこれまで重要視されてきました。
電車通学が難しい事情
日本では、特に都市部で多くの学生が電車で通学しています。しかし、これと同じことがマレーシアでできるかというと、現地の事情を考えるとなかなか難しいものがあります。
スクールバスで通っている生徒もいるものの、都心部では保護者が毎日車で子供を学校の前まで送り迎えすることが当たり前となっており、電車で通学する高校生以下の学生の姿を見ることはまずありません。襲われたり誘拐に遭ったりするかもしれないという安全面の問題が大きな懸念となっていると考えられますが、小学一年生でも一人で電車に乗って学校に通える日本と現地の治安環境とでは大きな差があり、通学のための電車利用というのはまだまだハードルが高いように思えます。
このように、様々な理由から大半の人が結局車を利用しているために渋滞は一向に減らず、近いうちに飽和状態となるであろう交通量を少しでも改善するため、新たな公共交通機関の整備が急がれてきました。
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MRT(大量高速輸送交通)の開通
そうした背景の中、これまで既存の鉄道路線の恩恵を受けてこなかった地域をつなぎながらクランバレー地域を縦断するMRTスンガイ・ブロー~カジャン線の計画が承認され、2016年12月に一部区間開通、そして2017年7月に晴れて全線開通となったわけです。
隣国タイのバンコクも東南アジア屈指の交通渋滞で有名ですが、そんな中でスカイトレイン (BTS) が今や市民生活や観光客にとって欠かせない移動手段となったように、このMRTもクアラルンプール首都圏近郊に住む人々の移動手段を大きく変える公共交通機関としての役割を期待されています。(実際、MRTはBTSを意識して作ったんだろうと感じられる部分が沢山あります。)
MRTが開通したことにより、先に述べたような状況も少しずつ変化しているようです。MRTはこれまでの公共交通機関の空白地帯を埋めるとともに、既存のLRTとの接続によりKLの公共交通機関全体の利用者数の底上げをもたらしました。地元紙ザ・スター (The Star) で報道された数字によると、一日当たりの利用者数を2017年と2019年で比較したところLRTで16~18%、そしてMRTでは何と60%近くもの増加率となっていることが分かります。(全体の利用者数を合計すると、2017年:約59万人 → 2019年:約75万人/日) 。(参考:”MRT ridership picking up“, The Star, Oct.21, 2019) クランバレー地域では、既存路線と接続する大型商業施設のプロジェクトに加え、MRT2とLRT3という新線も現在建設中で、今後はいよいよ日本のように駅が近い不動産の価値が上昇していくのではないかと推測されます。
マレーシアの交通事情についての次の記事「MRTってどうなの?⇒予想外によかった」で、実際に体験した感想を含めMRTについてもう少し詳しく書いていますのでそちらもぜひご覧ください!
(2017年11月17日:タイトル・見出し修正)
(2021年3月4日:テキスト修正)