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【マレーシア航空】2024年12月まで複数路線で減便:一体何が起きているのか?

投稿日:2024年8月29日 更新日:


突然の減便発表

マレーシア航空を傘下に持つ Malaysia Aviation Group (MAG) は2024年8月24日、マレーシア航空および子会社の格安航空「Firefly」、巡礼便の「Amal」について、KLIA発着の13路線を対象に2024年12月まで減便すると発表。減便対象には成田および関空とクアラルンプールを結ぶ定期便も含まれており、推計でおよそ100万人の乗客に影響が出ると見られています。

以前はサービスの質が低下して叩かれまくっていた時期もありましたが、新型コロナ後は予約対応や機内サービス、フライトの定時運航率も含め、筆者の個人的感覚ではマレーシア航空の満足度は結構高めでした。世界的に航空需要が回復していることもあり、2023年度のマレーシア航空の旅客数は前年比46%増となる1,400万人超を記録。2024年3月決算では、2010年以来実に14年ぶりとなる経常黒字 (7億6,600万リンギ=約256億円) を計上していました。表向きには順調な経営が行われているように見えていたのです。

ところが、ここにきて突然の減便発表。マレーシア航空に一体何が起きているのでしょうか

背景には、今年に入ってから悪化した運航業務(オペレーション)に関わる深刻な問題が関係しているようです。8月中旬にはフライトの遅延やキャンセルが急増しましたが、とりわけ決定的だったのは8月の4週目に3日連続で起きた重大な機体トラブルでした。

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頻発する機体トラブル

Airplane flying

by winterseitler on Pixabay

直近だけで、以下のようなトラブルが発生しています。

8月4日:ロンドン→クアラルンプール MH1便 (使用機材:A350-941)

飛行中のエンジントラブルのため、カタールのドーハ・ハマド国際空港にダイバート

8月20日:メルボルン→クアラルンプール MH128便 (使用機材:A330-323)

飛行中のエンジントラブルのため、オーストラリア北部のアリス・スプリングス空港に緊急着陸

8月21日:クアラルンプール→上海 MH386便 (使用機材:A330-323)

離陸後にキャビン与圧異常のため出発空港へUターン

8月22日:クアラルンプール→メディナ MH152便 (使用機材:A330-223)

離陸後にキャビン与圧異常のため出発空港へUターン

9月2日:クアラルンプール→仁川 MH66便 (使用機材:A330-323)

離陸後に油圧系統の不具合のため出発空港へUターン

どのインシデントもけが人等が出なかったのは幸いですが、さすがにここまで重大トラブルが続くというのは異常な状況です。

これらは、6月末にマレーシア航空に対して行われた「Civil Aviation Authority of Malaysia (CAAM:マレーシア民間航空庁)」による特別検査で指摘されたように、同社が現在抱えるさまざまな問題点が複合的な原因になっていると考えられます。

整備士の不足

エアラインにおいて最も大切なのは安全性です。安全な運航にはフライトに関わる航空機材の適正なメンテナンスが不可欠で、どのエアラインも「整備、修理、オーバーホール (MRO)」の人材確保と育成に大きな力を注いでいます。

ところが、現在マレーシア航空には肝心の技術者(航空整備士)の数が不足していることが明らかになりました。

飛行機を安全に飛ばすため、安全検査やメンテナンスにはさまざまな資格やスキルを持った整備士が大勢関わっています。しかし、2024年1月以降の約半年間だけでも、マレーシア航空の技術部門全体の約15%が離職したとのこと(411人中63人)。抜けた穴を埋めるための新規採用ができていない上に人材育成にも問題があり、人不足のため機材の維持管理や安全な運航に大きな影響を与えているというわけです。

サプライチェーンの問題

Airplane engine turbine

by Michael Schwarzenberger on Pixabay

人材の不足に加えて、サプライチェーンの問題も原因の一つとして挙げられています。

航空機の運航は多岐にわたる非常に複雑な調達業務によりサポートされています。現在のマレーシア航空では整備部品の調達に問題が生じているということで、当然ながら機材の維持管理にも大きな影響を与えていると考えられます。

さらに、世界的なサプライチェーンの問題は航空機製造メーカーにも影響を及ぼしているため、マレーシア航空が受領するはずだった新規購入機の納入が当初予定より遅れており、結果として運航を維持するために必要な機体の数が不足していることもフライトのキャンセルといった混乱を引き起こしているようです。

飛行機の数自体が足りなければ、当然ながら機材のやりくりが間に合わなくなりますよね。通常、航空機材の調達においてはある程度の遅延は想定しているはずなので、遅れが想定以上だったのか、または見通しが甘かったのかのどちらかでしょう。

8月4日に起きたロンドンーKL便のドーハへのダイバートでも、すぐに代替機を送ることができず当地で乗客が60時間も足止めされる状況が起きましたが、背景にサプライチェーンの問題が絡んでいることは否定できないはずです。

こうした理由から、現状では安全性をキープしつつマレーシア航空が持つ路線全てで既存の便数を飛ばし続けるのは難しいと判断。当面の解決策として減便の決定に至ったということです。フライトを減らせばメンテナンスや機材のやり繰りに余裕は生まれるものの、「飛ばさない=収入が消える」という大前提があるためエアラインとしては本来避けたい選択肢のはずですが、もはやそうするしかなかったのでしょう。

当局の対応と今後の見通し

こうした事態を受けてマレーシアの航空規制当局は、マレーシア航空に対して発行されている航空運送者事業許可証 (AOC) の有効期間を通常の3年間から1年間にカットすることを決定。業界でも、これは非常に厳しい措置だと受け止められています。加えて、技術部門の人材確保に全力を挙げること、機材の安全性と維持管理をより重視することなどを含む再発防止策の実施、およびその進捗状況を当局に月次報告することが求められています。

アンワル・イブラヒム首相は、マレーシア航空の問題についてはほぼ毎週閣議で扱っていると明かしており、フラッグ・キャリアが抱える深刻な問題を何とかしなければという政府の焦りがうかがえます。一方で、MROや調達も含めて親会社であるKhazanah (カザナ) のマネジメント能力が決定的に欠けているという指摘もあり、短期間で簡単に解決するような問題ではないようです。

一連の報道の後、地元でも「マレーシア航空はどうなってるんだ」「マレーシア航空の飛行機は安全なのか」といった懸念の声が多く上がっています。今回のインシデントについてアントニー・ローク運輸大臣は、『サプライチェーンの問題に起因する技術的トラブルについては、マレーシア航空に限らず他の多くのエアラインでも起きている』とコメント。『航空会社にとって、コストがかかるダイバート(目的地以外への着陸)や出発空港へ引き返すことはできるだけ避けたいもの。それでも、マレーシア航空は今回安全を優先してUターンや緊急着陸するという判断を行ったという点を理解して欲しい』と述べ、市民に冷静な対応を促しています。

マレーシア航空の発表によると、必要な調整をすでに実施した8月と9月のフライトについてはこれ以上のキャンセルは予定されていないとのこと。ただ10月以降については今後一部のフライトがキャンセルされる可能性があり、特に繁忙期となる12月のフライトがどの程度影響を受けるのかは不透明です。2024年末までの期間にマレーシア航空でのフライトを予定している方は、最新の情報を入手するようご注意ください。

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[参考資料]
(2024年3月21日) The Straits Times. “Malaysia Airlines posts its first profit in over a decade”, URL: https://www.straitstimes.com/business/companies-markets/malaysia-airlines-posts-its-first-profit-in-over-a-decade?_gl=1*uftc72*_gcl_au*MTAzNTIxNzAzOS4xNzI0OTE4OTQ2 (参照日:2024年8月29日)
(2024年8月26日) The Edge Malaysia. “CAAM to present special audit of MAG to Cabinet on Wednesday — Loke”, URL: https://theedgemalaysia.com/node/724278 (参照日:2024年8月29日)
(2024年8月29日) The Straits Times. “‘What happened to Malaysia Airlines?’: KL takes steps after national carrier forced to cut flights”, URL: https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/govt-moves-to-tackle-mechanical-and-manpower-issues-faced-by-malaysia-airlines-group (参照日:2024年8月29日)


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40代の通訳者です。
マレーシアのクアラルンプール在住。

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