年中常夏で熱帯気候のマレーシア。赤道直下の強い太陽光線で、当然車の中も相当熱くなるのでほとんどの車が何らかのフィルムを貼るなどして暑さ対策をしています。そんなマレーシアで、2019年5月8日より自家用車の着色ガラスならびにフィルムに関する保安基準が緩和されました。
可視光透過率 何パーセントまでOK?
改正前の基準では、フロントガラスは可視光透過率70%以上、前部サイドガラスは50%以上、後部サイドガラスならびにリアガラスは30%以上となっていました。この基準が今回の変更で、後部サイドガラスとリアガラスは透過率30%以下でもよいということになりました。言い換えると、車体後部のガラスについては透過率の基準が完全に撤廃された=真っ黒でもOKということになります。ちなみにフロントガラスならびに前部サイドガラスは従来通りで、それぞれ70%以上と50%以上の透過率をクリアしている必要があります。
参考までに、改正道路運送車両法に基づく日本の保安基準では、フロントガラスと前部サイドガラスが透過率70%以上、後部サイドガラスとリアガラスは基準値なし (透過率0%でも車検は通る) となっています。国産メーカーについていえば、恐らく90%以上の車両で後部座席に外から中が見えにくいプライバシーガラスを装備しているといってよいでしょう。一つ忘れてはいけないのが、日本にしろマレーシアにしろ、フィルムを付けている場合はガラスに貼った状態の透過率で検査されるということ。透明に見えても元々のガラス自体が透過率70%台のものもあるので、基準値以下にならないよう注意する必要があります。
今回のマレーシアにおける規制緩和に関する報道では、「もっと濃いガラス (フィルム) にすれば、エアコンの効きがよくなる」という点がしばしばフォーカスされていますが、直射日光による車内温度の上昇については可視光線透過率だけでなく遮熱性能など他の要素も絡んでくるので、ただ一概に色が濃い方が涼しいとは言い切れないでしょう。なので「中がよく見えなくなることで車上荒らしの可能性が少し下がる」というのが、実は基準が改正された一番のメリットではないかと思います。 (注:あくまで個人の意見です) ただ、あくまで後部座席に限ったことなので、運転席や助手席にカバンなど貴重品っぽいモノを置いているとまったく防犯の意味がありません。
フルスモークの車は違法?
マレーシアの道路を走っていると、フロントガラスも含めて真っ黒で中が全く見えない車を時々見かけます。果たしてそんな車を公道で運転していいのか、違法ではないのか?と考える方も少なくないでしょう。結論から言うと、必ずしも違法だと断定はできません。もちろん通常の基準だとアウトになりますが、実は特定の条件において例外的にフルスモークの許可を取ることが可能だからです。
現在マレーシアにおいて合法的にフルスモークが許可される特殊事情は二つあります。一つは保安上の理由です。政治家や富豪、大企業の役員、その他著名人など、外部から車内の様子や人物が見えるとセキュリティの観点から問題だという場合、まず申請書を提出します。(申請手数料はRM50=約1,300円。意外と安い) 次に、マレーシア交通局(JPJ)局長が委員長を務める特別委員会の審査を経て妥当であると判断されたなら、該当車両のフルスモークが2年間認可されます。ベントレーやロールスロイスなどのいわゆるショーファーカーでフルスモークの場合、ほぼ100%セキュリティーのためと考えてよいでしょう。ただし今回の法改正により、セキュリティ上の理由でフルスモークが認められた場合は認可費用としてRM5,000 (約13万円) を支払う必要があります。
フルスモークが特別に許可されるもう一つのケースは、健康上の理由です。光線過敏症をはじめ太陽光を浴びると障害が起こるような病気を持つ人が利用する車の場合、医師の診断書と共に認可の申請書を提出できます。申請が通った場合は、やはり2年間有効の認可となります。健康上の理由である場合、一連の申請・認可手続きはすべて無料となっています。
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認可手続きにまつわる不透明さ
病気の人に無料で申請が認められているというと一見公平な制度のように聞こえますが、地元の人によると「健康上の理由」としてフルスモークが認可された車のうち、実際にどれほどが本当に病気で苦しんでいる人のために利用されているのかを疑う声も少なくありません。(街で見かけるフルスモークは、その殆どが1,000万円を超えるような高級車。また、フルスモークが必要なほど重度の皮膚障害を抱えている国内の患者数はそれほど多くないと言われている)
日本でもそうですが、政治的に大きな権力のある人であれば医師の診断書一つぐらいどうにでもなるというのは公然の秘密ですし、マレーシアの場合は金の力でさまざまな“問題”を「解決する」ことも多々あります。いずれにしても、認可された数のうち何パーセントが健康上の理由だったのか等の詳細が明らかになっていないため、制度が悪用されていたのかどうかについてもはっきりとしたことは分かりません。
ただ、マレーシア交通局(JPJ)のシャハルディン局長 (Datuk Seri Shaharrudin) みずからコメントしていますが、以前は理由のいかんにかかわらず申請・認可は無料だったものの「仲介人が間に入り込んで手数料という名目の金を手にしていた」とのこと。また、申請の仕方も認可のプロセスも不透明で「運輸大臣と個人的なコネクションのある人たちが直接連絡を取って申請していた」らしく、当時の運輸大臣が2011年からの8年間で5,000件の認可を出していたと明らかにしています*。サラッと言っていますが、認可を巡る一連のプロセスにおいてかなり黒に近いグレーな部分があったのは確かなようで、色々な人の思惑と利権が絡み合ったドロドロの世界が垣間見えます。
今回の法改正の直後は、警察当局が「事前に話を聞いていなかった」として不満を漏らしていたようですが、数日後には新基準を受け入れて支持すると表明。道路交通法は運輸省の管轄なので必ずしも警察との折衝は必要ないようですが、警察側としては車内が見えにくくなることで容疑者の発見など事件の捜査にも影響が出かねないとの懸念を示しており、一部住民の間にもこの点を心配する声が上がっています。
おすすめ記事:「マレーシアで運転するなら注意したい 5つのポイント」
(2019年8月6日: タイトル・テキスト修正)
[参考資料]
“Tinted love: New policy allows fully darkened rear windows and windshield.” The Star Online. URL: https://www.thestar.com.my/news/nation/2019/05/07/new-policy-allows-fully-darkened-rear-windows-and-windshield (参照日:2019年8月4日)
*”Darker rear windows now an option.” The Star Online. URL: https://www.thestar.com.my/news/nation/2019/05/08/darker-rear-windows-now-an-option/ (参照日:2019年8月4日)