1月頃から中国武漢を発生源として中国全土、そして世界中に拡散した新型コロナウイルス (COVID-19)。今のところ全く終息の見通しが全く見えていません。日本はもちろんのこと、それまでマスクを着ける習慣がなかったような国ですらマスクが飛ぶように売れています。
しかし、そんな中で頻繁に耳にするようになったのが「マスクをしても感染を防ぐ効果はあまりない」という意見。感染初期の頃、シンガポールでは主要紙の一面に「健康ならマスクをしないように」とのメッセージが掲載され、政府関係者も同様の意見を度々口にしていました。最初は「供給が追いついていないマスクの買い占めやパニックを防ぐために、適当なことを言っているんじゃないか」とも思いましたが、調べてみると単純にそういうことではなかったようです。(参考ー ハフポスト日本版:「「健康ならマスクをしないで」シンガポール政府、売り切れ続出で勧告 」)
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マスクのタイプと感染予防効果
サージカルマスク
現在市場に出回っているマスクの多くが、下の写真にあるようなサージカルマスクと呼ばれるタイプです。
使い捨てで比較的コストが低い上、医療現場でもよく使われていることから何となく安心感があるサージカルマスク。除去できる微粒子の大きさを考えると空気感染するウイルスに対しては効果がありませんが、今回の新型コロナウイルスのように咳やくしゃみで水分を含んだ少し大きめの微粒子として飛沫感染するものに対しては、液体バリア機能を持つサージカルマスクは有効です。
※ 東南アジアなどの国では、マスクが品薄になっている状況に乗じて粗悪品も出回っているので注意しましょう。見た目は似ていても、ただの紙などで作られた液体バリア性を持たない安物では、ウイルスを含んだ水分を通してしまうので感染予防できません。
しかし、地元マレーシアの街中でマスクを着けている人を見ると、ほとんどの人がきちんとフィットさせずに鼻の横などマスクの周囲にすき間ができています。また、鼻がマスクの外に出ているという論外な着け方をしている人もちらほら見かけます。外からの飛沫感染のリスクを下げたいのなら、ウイルスが内部に入り込まないようマスクと顔を密着させて、口と鼻の両方をしっかり覆う必要があるのです。
さらに、感染を防ぐにはマスクを使い終わったら汚染されている外側に触れないように外して捨てなければいけませんが、大抵の人は無造作に外し、手でクシャクシャと丸めてゴミ箱にポイッとしているのではないかと思います。また、食事の際に外してテーブルの上に置いておき、食事が終わったらまた着けるという人も決して少なくありません。しかし、それではマスクについているウイルスで自分の身体や周囲を汚染させることになります。せっかくマスクをしていても、正しい着け方をし適切に処理しなければ、感染予防という意味では効果が薄れてしまうのです。
(正しい着脱方法に関しては、医療現場用の消毒剤や医薬品を製造するサラヤのホームページが分かりやすく参考になります。「マスクの着脱方法」)
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N95マスク
PM2.5対策でもよく耳にしたN95マスクであれば、フィルターの高い除去 (捕集) 効果や顔にしっかり密着する形状のため、正しく装着すればウイルス感染予防には最も適したマスクと言われています。実際、今回の新型コロナウイルスで対応にあたる医療従事者も、そのほとんどがN95マスクを着けている様子を報道でも見ることができます。ただし、より微粒子もキャッチできるということはそれだけマスクを通して呼吸しにくいということでもあります。また値段も高いことから、医療現場ならともかく個人が感染予防として毎日長時間使うのは現実問題として難しいでしょう。
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おしゃれマスク
また、特に東南アジアなどでは表面にデザインの施されたおしゃれなマスクをしている人もいます (下の写真を参照)。バイクに乗る際に排気ガスを直接吸い込まないようにするためには一定の効果があるんだろうと思いますが、そもそもただの布や紙で出来ているマスクは基本的にウイルス感染予防という意味では役に立ちません。
また、こうしたタイプのマスクを捨てずに (または正しく洗浄せずに) に使い続けていると、感染を防ぐどころか逆効果になりかねません。どんなタイプのものであれ、“使い終わったマスクは汚染されている”という意識で扱わないと、結果的に家の中をウイルスで汚染してしまうかもしれないわけです。ヘイズの時のように、とりあえずマスクを着けていれば何もしないよりマシというものではなく、感染予防を考えるとそのまま使い回しは厳禁だと覚えておきましょう。
予防のためのマスク着用について
日本人からすると「風邪やウイルスを防ぐにはマスク着けるのが当たり前だろ」と思うものですが、マスクを着けることによる感染予防効果の医学的な検証は不十分で、そのためWHOやCDCといった感染病の知識を豊富に持つ専門機関であっても、感染予防目的での一般人のマスク着用をこれまで特に推奨してこなかったのが現状です。
では医学的に検証されていないというのであれば、なぜ医者や看護師はマスクを着けるのでしょうか?
専門家の声をざっくりまとめると、「病院のようなコントロールされた環境下で、医療従事者などが正しい仕方でマスクを着用するのであれば効果がある」ということのようです。一般人の場合、正しく着用し、頻繁に取り替え、安全に処理するというマスク着用のカギとなる点を正しく行えない場合が多いため、結局のところ感染予防という意味では効果がそれほど高くないということなのでしょう。(参考―BBC:「マスクは有効? ウイルスの感染拡大を防ぐには」/ WSJ (英語): ”Coronavirus Fears Drive Demand for Face Masks, but Some Experts Doubt Them”)
またSARSの時にもあったようですが、新型コロナウイルスが結膜から感染する可能性も否定できない模様です。実際、ニュースで報道されている中国の医療従事者も目をしっかりと保護している様子が見られます。もちろん、医者がゴーグルやシールドを着けるのには患者の血液や体液からの汚染を防ぐというウイルス感染予防以外の理由もありますし、発症している感染者と直に接触する医療従事者のリスクと一般人のそれとは異なりますが、マスクだけで新型コロナウイルスを完全に防ぐことはそもそもできないということは理解しておきたい点です。
こうした点を考えると、「一般人が感染予防目的でマスクを着用することを特に推奨しない」というWHOなどの立場は、マスクの効果自体だけでなく、不適切な着用の仕方や処理からくるリスク、かかるコスト、また日常生活で現実的かどうかなど様々な要素を総合的に見て出てきた結論のようです。
(2020年6月8日:追記) 2020年4月にはCDCがマスク着用により感染速度が抑えられる効果について認めました。さらに、6月5日になって今度はWHOが基本的にマスク着用を薦める方針に転換。(参考―BBC:「WHO、マスク指針を大転換 密接場面での着用を推奨」)
医学的検証が云々ということよりも、一般市民がマスクをすることで感染拡大を抑えられたとみられる国や地域があるのは事実です。また、発症前であっても他人に感染させると見られる今回の新型コロナウイルスの例などを考えると、とりあえずみんながマスクを着けることによる感染予防効果は否定できません。こうしたことから、これまで懐疑的だった専門機関も一般のマスク着用を認めざるを得なくなったということでしょう。
拡散を防ぐためのマスク着用は◎
感染予防効果としてはいまいちと見られてきたマスクですが、自分が他の人に汚染を広げないために有効であることは広く認められています。例えば、医者や看護師はマスクをすることで患者や器具を汚染しないよう防御できますし、新型コロナウイルスの感染においても、体調の悪い人がマスクをしていれば咳やくしゃみで周囲にウイルスを拡散するのを防ぐことができます。
今回の新型肺炎は潜伏期間中に無症状であっても他の人に感染することが知られていますし、たとえ症状があってもさほど真剣に考えていない人もいます。それでもとりあえずマスクをしていれば、自覚せずに感染していた場合でも他の人にうつすリスクを減らすことができるので、その点でマスク着用は意味があると言えるでしょう。実際、元々マスクの着用率が高かった日本を始めマスク着用に抵抗の少ないアジア圏での感染速度が欧米より低いことなどを見て、感染の拡大スピードを緩める目的で今後は世界中でマスク着用が一般的になっていくかもしれません。
感染予防は総合的に
各国でマスクが品切れになるなど、新型コロナウイルスの感染拡大で多くの人が不安を感じているのは確かです。中には「お店でマスクが買えなかったから、ネットで何倍ものお金を払って買った」という方もいるでしょうし、最近では日本政府が「各世帯に布マスク2枚を配布」と発表したことでも色々と騒ぎになっています。覚えておきたいのは、感染予防はマスクなど何か一つのアイテムだけで効果が出るものではないということ。正しい手洗いとうがい、家の中で手が触れる場所のこまめな消毒、可能であれば人が集まるような感染リスクの高い場所を避ける、また睡眠と栄養で免疫を高めることなど、色々な対策を総合的に取ることで予防効果を上げるようにしましょう。
特に海外在住の日本人の方は、現地の人がパニック買いを始めたり、同僚からSNSでビックリするような情報が送られてきたりすると、どうすればいいか分からず不安になるかもしれませんが、さまざまなルートで拡散する未確認情報には十分注意しながら、できるだけ正確な情報を入手し、今回の新型コロナウイルスが終息するまで落ち着いて必要な対策をとっていきましょう。
(2020年6月8日:テキスト修正)