罰金の割引シーズンを待つ人たち
「メガセール」に「中国正月セール」、「ハリラヤセール」、「ディーパバリセール」、「クリスマスセール」などなど、年がら年中特別商戦やってるんじゃないかと思えるマレーシアのショッピングセンター。マレーシア人がセールやディスカウントが大好きなのも不思議ではありません。
さて、マレーシアではこうした割引プロモーションがなんと交通違反の罰金にもあるのです。(注:この記事中では、法的には区別される「反則金」と「罰金」の両方を含めた一般的な意味合いとしての「罰金」という語を使用しています。) 先日もヒンドゥー教の祭典「ディーパバリ」に伴い、クアラルンプール交通警察本部にて11月7日から9日まで3日間の「半額割引」を実施。初日だけでも約4,000人の人出という実に活気あふれるイベント=罰金納付となったようです (笑)。他の州でも同様のプロモーションを行うところがあるようで、国全体でかなりの金額がこの期間中に納付されることになると見られています。
日本人にとってはそもそも「罰金のディスカウント」という意味が分からないかもしれませんが、当局によると「こうしたプロモーションは、ブラックリストに載せられる前にちゃんと納付するよう違反者に働きかける活動の一環として行っている」とのこと。一見それなりに納得してしまいそうな理由ですが、効果が薄いどころかむしろ違反を助長している側面さえあるのではないかと個人的には感じるところです。何かの年中行事がある度にこうした割引を行っているため、一般市民の中には「もし交通違反で反則切符を受け取ったら、次のディスカウント・プロモーションがあるまで払わずにためておけばいい」と考えている人が非常に多くいます。実際問題として「数回ぐらい違反しても、どうせ後で割引期間中にまとめて払えば安くなる」ということになり、交通ルールを守ろうという意識が人々の頭から消えてしまうのも無理はありません。
もちろん、納付されていない罰金がある場合は自動車税ならびに車両登録や名義変更に関わる書類の更新ができないなど、違反者が逃げ得にならないようある程度の措置は取られているものの、大半の人にとって罰金はすぐに払わずとりあえず待ってみた方が得をするというのが現状なのです。
駐車違反にはホイールロック→結局中止に
マレーシアはかの有名な「ダブルパーク」と呼ばれる二重駐車や交差点の曲がり角に堂々ととめる車など、かねてから駐車マナーの悪さではよく知られており、それが特に商業エリアにおける交通渋滞の主な原因の一つとなってきました。ここ最近は、KL市内のいくつかのエリアで悪質な違反車両にホイールロックをかけることでその場で罰金を支払わざるを得ないような取り締まりを行い、交通の流れをスムーズにするという意味においては一定の成果を上げていました。しかし、前ナジブ政権下にて外注で取り締まりの請負契約を結んだ業者の選定手続きに不透明な部分があった上、業者が手にする利益が不当に高いという指摘もあり、KL市長の指示により現在ホイールロックの使用は中止されています*。
*2018年11月時点。通常の駐車違反切符の交付は継続中
特に駐車違反の罰金に関しては、プロモーションの時期になると “出血大サービス” 状態 (70%割引もしくはそれ以上) になるため、払わないまま納付書を大量にためこむ人が少なくありません。現状の「払わない人多数」→「払ってもらうために大幅割引」→「次の割引まで払わない人多数」→「払ってもらうために大幅割引」という無限ループをどこかで断ち切らないことには、交通法規を破らない動機付けとなるはずの罰金の存在意義はいつまでたっても回復しないでしょう。
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違反を減らすために必要なこと
根本的に問題なのが「罰金はすぐ払わない方が得をする」という認識です。2013年7月1日以降、マレーシア政府として「納付が遅れればより高い罰金を」という取り組みを行うと言っていたものの、実際には相変わらず定期的にディスカウントが行われており、安くなることを期待してそれまでは罰金を払わないという一般の人々の傾向にも変わりはありません。そして、その延長線上に「一回の違反でも数回の違反でも、結局大して変わらない」という考え方が居座っているのです。こうしたマインドセットを変えるには、「反則金の納付を遅らせれば遅らせるほど、また違反回数が増えれば増えるほど確実に損をする」という原則を徹底することが不可欠でしょう。
マレーシアの場合、度重なる違反による罰金の未納が積み上がったあげく、最後には「お金がないから払えない」という言い訳も少なくありません。こうしたケースはトラックやバスの運転手に度々見られ、そして実際に支払うだけの能力が当人にないことも多いのです。そのような状況にある違反者も含めて未納状態をクリアにするため、当局としては一定期間ごとに罰金の割引をするという手段を取らざるを得ない事情があるのかもしれません。
こうした状況を改善するには、罰則の強化や適用を徹底すると同時に無違反であることの直接的なメリットを増やすことが重要となってくるでしょう。例えば、日本ではゴールド免許やSDカードといった仕組みにより、優良ドライバーが受けられる特典が数多くあります。また各都道府県警察が主催する「無事故・無違反コンテスト」(優秀チームの表彰・賞品あり) など、積極的に交通安全の意識を底上げする活動も各地で行われています。ただ違反者を取り締まるだけでは交通法規を順守する積極的な動機づけとはなりませんし、罰金もどうせ後で割引されるとあっては違反自体を軽く見る傾向がますます助長されてしまいます。他の国で効果が出ているモデルなども参考にしながら、今後マレーシアでも行政と民間が一体となり国全体で交通安全の意識改革を行えるようになって欲しいものです。
おすすめ記事:「【マレーシア】運転免許制度に苦しめられる在住外国人」
[参考資料]
(2018, November 8). Thousands queue to settle traffic summonses. The Star, p. 8.
(2018年10月26日), ‘Mayor puts a halt to wheel-clamping in KL’. The Star Online. URL: https://www.thestar.com.my/metro/metro-news/2018/10/26/mayor-puts-a-halt-to-wheel-clamping-in-kl/ (参照日:2018年11月9日)
(2018年1月17日), ‘PDRM Traffic Offence Summons Rates’. BikersRepublic.com. URL: http://www.bikesrepublic.com/featured/pdrm-traffic-offence-summons-rates/ (参照日:2018年11月9日)