コーヒーの話

コーヒーフレーバーホイール:世界中で使うには問題あり?→その理由とは

投稿日:2021年6月21日 更新日:


Taster's Flavor Wheel

風味を表現するのに役立つフレーバーホイール

みなさんは、コーヒーの風味を表現する時にどんな言葉を使っていますか?

大抵の人は、基本的な味覚である「苦い」「酸っぱい」といった表現を使うことが多いでしょう。ある程度コーヒーが好きな方であれば、「チョコレート」「ナッツ」「キャラメル」といった言葉が出てくるかもしれません。さらに特徴を具体的に表現しようとすると、「ベリー系」「柑橘系」「ドライフルーツ」といった果物や、「シナモン」や「ハーブ」といったスパイスや野菜の風味に例えることもあります。

コーヒーが持つこうした複雑な味わいを判断するため、ちょうどワインやウイスキーの味を評価する際にも使われるような、ある一定の風味リストからなる「フレーバーホイール」というものがあります。中でも基準となるものとして世界的に使用されているのが、SCAA (米国スペシャルティコーヒー協会) によるフレーバーホイールです。(こちらのブログ記事が参考になります:「山と珈琲、心の一杯」“SCAAの新しいコーヒーフレーバーホイールを日本語に翻訳してみた”)

SCAAのフレーバーホイール (Coffee Taster’s Flavor Wheel) は2016年に改訂版が公開され、プロ―のテイスターのみならず、コーヒー好きの方が自分でテイスティングする上で愛用している場合も少なくありません。筆者も、新しく手に入れたコーヒーを味わう際にはよくこのフレーバーホイールを利用しています。

フレーバーホイールは、コーヒーの風味を理解してそれを言葉で表す上でいまや代表的な存在となっていますが、一方で問題点も指摘されています。

世界で広く受け入れられる基準としては偏りがある

SCAAフレーバーホイールで使われている語いは、確かに風味を的確に表しているものの北米文化中心のとらえ方だと言われています。これは、フレーバーホイールの語いセットが「まだ十分に “inclusive (インクルーシブ)” でない」と指摘されている点です。

例えば、「ブラックベリーザクロ、少しアニスも感じる」と言われて、ハッキリとイメージが湧く日本人は恐らく少ないでしょう。他にも、「糖蜜」「カモミールの花」「ジャスミンの花」「麦芽」など、人によっては実際にそのものの香りをかいだことがないであろう例があります。日本に限らず、これはアジア圏の多くの国でも同じようなものでしょう。

このように、北米やヨーロッパでは一般的であっても世界の他の地域では通用しない語いがいくつも含まれていることから、フレーバーホイールに何を例として含めるのかについてまだまだ考慮の余地があると言えるのです。

さまざまなコーヒーのチャンピオンシップや品評会などを通し、スペシャルティコーヒー文化を初期にけん引したのが欧米だったことは確かです。しかし、急速な伸びを見せるアジアを始め、現在ではスペシャルティコーヒーの消費は世界中に広がっています。また、そうした土地では同時にスペシャルティコーヒーへの理解もより深くなり、提供する側、消費する側双方のレベルも高くなっています。このような状況を考えると、世界のさまざまな地域でフレーバーホイールを使用するにあたり、北米文化をベースにした項目を見直す声が上がるというのも不思議ではありません。

現地版フレーバーホイールを作る試み―台湾&インドネシア

2018年、台湾コーヒー研究所が地元のスペシャルティコーヒーの店舗と共同で、台湾版のフレーバーホイールを公開しました。ドライフルーツの「ロンガン」、スパイスとして使用されている「朝鮮人参」や「ナツメ」といった食材が例として含まれており、台湾にとどまらず、中華また東南アジア圏全体でイメージが湧きやすいものとなっています。

同じくインドネシアでも、地元のスペシャルティ―コーヒー関係者が共同でインドネシア版フレーバーホイールを開発しています。興味深いのが、インドネシア版では香辛料の項目がとても多くなっているということ。インドネシア料理は食材として様々なスパイスを利用することで知られていますが、そうした食文化を持つ国だからこそ、コーヒーの風味をスパイスで例えることは自然な流れだったということでしょう。

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“好ましくない風味”とは?

これまでのフレーバーホイールでは、一部を除いてスパイス系の香りが強いもの、また発酵感を強く感じる風味など、特定の風味は自動的にネガティブな評価を受けていました。しかし、この点は今後改善されていくと見られています。

例えば、マロラクティック (乳酸発酵) やアナエロビック (嫌気性発酵) など、近年では収穫後の生産処理において発酵プロセスにより特徴ある風味を作り出すことも珍しくありません。以前であれば、「発酵臭=管理の失敗で果実が発酵してしまった」ということでネガティブに取られたわけですが、しっかりと管理された発酵で意図的に作り出された風味は、いまや逆に付加価値を高めるものとなっているのです。

前述のインドネシア版フレーバーホイールではスパイスの香りに関連した項目が多い、という点を述べましたが、これもそうした風味のバランスが適度で豆の特長をより引き立てるものであれば、他のコーヒーにはない付加価値となる可能性があります。スパイス香=コーヒーの風味を妨げる」として一概にマイナスでとらえることはできないわけです。

このように、生産処理技術の工夫や豆が持つ個性に価値を見出す近年の流れから、以前は“好ましくない風味”の代表として挙げられていた項目も、逆に“好ましい風味”、または豆の個性としてポジティブに受け取られるようになってきています。今後、こうした多様性を反映できるフレーバーホイールが求められようになるのは間違いないでしょう。

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“日本版フレーバーホイール”の可能性

今ではジャパニーズ・ウイスキーが世界最高の評価を受けているように、複雑な香りや味に関わる仕事というのは本来日本人が得意な分野です。また、香りをイメージできる語いも非常に豊富です。

コーヒーの評価に使えそうなものに限っても、花だと「さくら」「れんげ」「つつじ」、ハーブ系だと「わさび」や「しそ」、果物では「うめ」「ビワ」「(日本の)」、その他にも「ひのき」「あんこ」「吟醸香」など、さまざまな日本独自の表現が考えられます。

古来より味覚や嗅覚を敏感に働かせてきた日本の文化を背景に持つからこそ、コーヒーの風味評価についてもぜひ日本から世界に独自の項目を備えた「日本版フレーバーホイール」を発信してもらいたいものです。

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[参考資料]
(2021年5月11日) “The evolution of the Coffee Taster’s Flavor Wheel”. Perfect Daily Grind. URL:https://perfectdailygrind.com/2021/05/the-evolution-of-the-coffee-tasters-flavor-wheel/ (参照日:2021年6月20日)
(2021年6月14日) “Experiments with localised coffee flavour wheels in Taiwan & Indonesia”. Perfect Daily Grind. URL:https://perfectdailygrind.com/2021/06/experiments-with-localised-coffee-flavour-wheels-in-taiwan-indonesia/ (参照日:2021年6月20日)


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