珈琲エッセイ

「最高級コーヒーといえばブルーマウンテン!」⇒「え、違うの?」

投稿日:2017年11月2日 更新日:


樽詰め出荷されるブルーマウンテン

「最高級コーヒー=ブルマン」という日本の常識

「一番おいしいコーヒーって、やっぱりブルーマウンテンなんでしょ?」

そう言われる方は今でも少なくありません。日本においては「最高級コーヒー=ブルーマウンテン」という図式がすっかり定着しています。コーヒーを飲まない人でも「ブルーマウンテン」の名前は知っていますし、缶コーヒーやインスタントコーヒーでさえ「ブルーマウンテン・ブレンド」と名がつくと、大抵の人はより高級で美味しいコーヒーだというイメージを抱くものです。お歳暮やお中元など、ギフトやプレゼント用に奮発して購入する人もいます。

しかし、世界的に見ると日本以外でブルーマウンテンの知名度はそれほど高くありません。それもそのはず、ジャマイカで生産されるブルーマウンテンコーヒーの少なくとも80%は日本が買い付けているからです。(参考:ジャマイカ大使館ホームページ)

スペシャルティコーヒーが国際的に認知されるようになった昨今では、コーヒーバイヤーは世界中のあらゆる生産地を飛び回って質の高いコーヒーを発掘しています。そして、品評会などを通してプロの目から客観的に見て品質が素晴らしいと認められた豆は、付加価値がつき他の豆よりも高い値段で取引されています。このように「よい品質のコーヒーをがんばって作れば、その労力に見合った高い金額が支払われる」という仕組みは、生産者にとっても品質をさらに改善する努力を続けていくためのモチベーションとなります。

では、日本で他の豆と比べて何倍も高い値段で売られているブルーマウンテンは、それ相応に何倍も素晴らしいコーヒーなのでしょうか。客観的に見ると、現在のブルーマウンテンの価格は品質に見合った金額ではないと言わざるをえません。

確かに、数十年前にブルーマウンテンの日本への輸入が始まった頃から約20年程前までは、喫茶店などでただ苦くて酸っぱいだけの、お世辞にも品質が高いとは言えないコーヒーが提供されていた時代もありました。そうした中では、ブルーマウンテンが持つ華やかな香りと穏やかでバランスのよい酸は他のコーヒーとは別格だったことでしょう。しかし、ここ10数年で日本のコーヒー文化は急成長を遂げ、スペシャルティコーヒーに対する理解と普及も目を見張るものがあります。ブルーマウンテンだけが特別な存在だった頃とは時代が変わっているのです。

それでも、日本企業直営の農園など生産も流通もしっかりと管理されている、一部の高品質な本物のブルーマウンテンにお金を出すというのであればまだ分かります。しかし、流通量が実際の生産量を大きく上回っているとも言われ、本来の規格には当てはまらない豆まで「ブルーマウンテン」として流通経路に乗っているとされる現状では、ただ「ブルーマウンテン」だというだけで他のコーヒーの何倍もの値段を出している日本の消費者は、ある意味「ボラれている」と言っても過言ではないでしょう。

 ブルーマウンテンと魚沼産コシヒカリの共通点

特定のブランド評価が高くなりすぎることの弊害を示す一例が、お米です。

日本で一番おいしいコメは何かと聞かれれば、多くの人が名前をあげるのが「魚沼産コシヒカリ」でしょう。平成元年から28年間連続で「特A」ランクの評価をキープし続けた実績に違わず、確かに甘味、食感、香りなど素晴らしい味わいを持つお米です。(平成29年度は「A」ランクにダウンしましたが、平成30年には再び「特A」に復帰) しかし、ブルーマウンテンと同じく、この魚沼産コシヒカリも実際の生産量より流通量の方がはるかに多いと言われています。やはり本当の魚沼産ではない米や魚沼産に別の米を混ぜたブレンド米が、より付加価値の高い「魚沼産」として流通しているからだろうと考えられます。

ブルーマウンテンにしろ魚沼産コシヒカリにしろ、市場におけるあまりにも高い評価と知名度を逆手にとり、消費者の目をごまかすような仕方で流通・販売されているケースが一部に見られるのは残念なことです。

ジャマイカのコーヒー業者としては、需要がある限り日本は適正価格より高くても買ってくれると踏んで価格を釣り上げていき、一方で買い付ける側は高値だとしても日本の市場に安定 (ほぼ独占) 供給できることから、双方にメリットがある「ウィンウィン (win-win)」の関係という側面がこれまでの取引にあったことは否めません。そのようにして高い金額で買い付けた豆をさらに高い値段で売るためには、消費者に「ブルーマウンテンは最高級コーヒー」というイメージを持ち続けていて欲しいのです。

「これだけ高いのだから美味しいに違いない」という、消費者の側のいわば「腐ってもブルーマウンテン」的な意識が変わらない限り、これからも全体として適正価格よりも高い値段でブルーマウンテンは日本国内に流通し続けることでしょう。

「ブルーマウンテン信仰」は終わるのか?

しかし、こうした状況にも少しずつ変化の風が吹き始めています。

ジャマイカの地元紙「Jamaica Observer」2016年9月18日付の記事(*1) によると、ジャマイカの農林水産省は、買い付け価格の急上昇により日本におけるブルーマウンテンの需要が近年減ってきていると指摘しています。例えば、ジャマイカのコーヒー加工業者は2014年からの2年間、売値をキロ当たりUS27ドルから65ドルまで引き上げました。これはとても生産コストや物価の上昇で説明できるレベルの値上げではありません。Karl Samuda 農林水産大臣は当時「他のコーヒーに対する価格競争力を持たない限り、ジャマイカのコーヒーはいずれ市場からの支持を確実に失うことになる」と警告しています。

最近のニュースによると、そうした懸念が現実のものとなってきているようです。

ジャマイカの地元メディア「The Gleaner」は、2017年10月3日付の記事(*2) の中で「ジャマイカのコーヒー産業が重大な危機に直面―ジャマイカ産ブルーマウンテンの最大の市場である日本のバイヤー、地元コーヒー生産者との新たな契約締結を拒否」と報じています。過去2年間については、キロ当たりUS60ドルを支払うという契約に合意していたようですが、同記事は「日本のコーヒーバイヤーは、今後はキロ当たりUS40ドル以上は支払わないと表明し、これ以上の価格を設定するいかなる妥協案に関しても交渉を拒否した」と説明しています。

果たして豆の過剰在庫が原因なのか、それともついに日本の消費者の「ブルーマウンテン信仰」も薄れてきたのか、ここにきてバイヤーが大幅な値下げを要求した具体的な背景については触れられていません。ただ理由はともあれ、価格の釣り上げまたは買い叩きはどちらも生産者や消費者の利益とならないことは確かです。

コーヒー産業というビジネスにおいて、理想論だけではうまくいかないことも事実でしょう。それでも、これだけスペシャルティコーヒーが身近になってきた今の時代、豆が持つ純粋な価値ではなくブルーマウンテン」というブランドに対していつまで高いお金を払い続けるのか、消費者の側としてもよく考えるべき時期に来ているのではないかと感じます。

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[参考資料]
*1 (2016年9月18日), Demand for Blue Mountain Coffee declines in Japan. Jamaica Observer Online, URL: http://www.jamaicaobserver.com/news/Demand-for-Blue-Mountain-Coffee-declines-in-Japan (参照日:2017年11月1日)

*2 (2017年10月3日), Coffee Blues Brew As Japan Refuses Jamaica’s Asking Price For Blue Mountain Beans. The Gleaner Online, URL: http://jamaica-gleaner.com/article/news/20171003/coffee-blues-brew-japan-refuses-jamaicas-asking-price-blue-mountain-beans (参照日:2017年11月1日)

(2017年11月28日:タイトル修正)
(2019年3月7日:テキスト修正)


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