ジャンプの失格を見て思い出したトラブル
イマイチ盛り上がりに欠けるという印象の北京冬季オリンピック。国内のウインタースポーツ人口がほぼゼロのマレーシアに住んでいると余計そう感じるのかもしれませんが、ソチや平昌の時はもう少しマシだったように思います。
とにかく今回の冬季五輪は、新型コロナの感染再拡大に加えて、中国のテニス選手を巡る不可解な動き、オリンピック中にもますます緊迫するウクライナ情勢、15歳の女子フィギュア選手のドーピング問題など、今回の冬季五輪はスポーツの祭典という理念にミソをつけるようなことがてんこ盛り。その中でも、日本の高梨選手も影響を受けたスキージャンプの失格問題は特に後味の悪いニュースでした。
ここまで問題がこじれた背景として、報道を見る限りでは、担当測定員がルールで決められているスーツの規定サイズについて普段とは異なる基準・計測方法で検査した(ルールの運用が変わった)ため失格者が相次いだというところにあるようです。これを聞いて頭に浮かんだのが、マレーシアから日本への一時帰国時に以前筆者が経験したチェックイン荷物の重量超過トラブルでした。
預け荷物の重量制限は、絶対か目安か
数年前にマレーシアから日本へ一時帰国した時のことです。
航空会社や搭乗クラスにより預け荷物の上限は違いますが、当時のマレーシア航空ではエコノミーチケットの場合は預け荷物重量は20KGまで、とされていました。しかし、実際には若干のオーバーは許容されており、チェックインカウンターでも「25Kgは超えないようにしてくださいね」と言われるほど、「最大で5Kgまでの超過は大目にみる」という“暗黙の了解”の上にこのルールは運用されていました。
トラブルが起きた一時帰国の際、往路となるクアラルンプール国際空港(KLIA)のチェックインでは、日本へのお土産なども入れた預け荷物は24Kgほどで問題なくパス。問題となったのは、一時帰国を終えてマレーシアへ帰る便の関西空港でのチェックイン時でした。(ちなみに、日本側ではマレーシア航空のカウンターはないため、共同運航している某青い日系航空会社カウンターでチェックイン手続きを行うことになります。)
チェックインの荷物計量では、お土産分の重量がなくなったのでマレーシア出発時よりも軽い22Kgほど。「おー、結構軽くなったな」などと考えていたところに突然言われたのが、
「2Kgオーバーですので、超過料金〇万円になります」
!? 一瞬27Kgと見間違えていたかと思ってカウンターに表示されている計測値を見直すと、「22.3KG」とあります。
「あの・・・これ22Kgですよね?」
「ですから2Kg超過です。お客様のクラスですと預け荷物は20Kgまでとなっております」
・・・。もし、これが格安航空のエアアジアなら話は分かるんです。エアアジアの場合は預け荷物は有料で、事前に購入した重量以上だとたとえ1Kgでも確実に超過料金を取られる仕組みになっており、利用者もそれを十分承知の上で予約・チェックインしています。しかし、今回の場合はちょっと話が違います。
もちろん、重量が燃料消費量や離陸速度など航空機の運用に大きく影響することは知っていますし、非常識な重量超過は当然請求されるべきだと思います。ただ、マレーシア航空においてこれまで実際には20Kgという基準が一定の許容範囲を持つ目安として運用されており、利用者側としては「20Kg+α」というのが慣習として受け入れられていると認識していました。本来ダメなものはダメ、と言われればそれまでですが、今まで常態的に許されていたところを、突然チェックインで「20Kgが絶対基準で1Kgでも超過したらペナルティ」と言われると、それで混乱しない利用者の方が少ないはずです。
「いつから変わったんですか?」
「ずっと以前から同じです」
いやいや、当時ですでに10年以上マレーシア航空を利用していましたが、20Kg以上を厳格に超過扱いすると言われたのは日本の空港でもその時が初めてです。何かが変わったのは間違いありません。
「20Kgというルール自体が前からあったのは承知していますが、過去10年以上、毎年何回もマレーシア航空を利用してきてここまで厳格に適用されたのは今回が初めてです。つまり、ルールの運用を厳しくするよう変わったということですか?」
しかし、担当者は変わったのかどうかという質問には決して答えることなく、ただ「規則でそうなっている。チケットにも書いてある」と繰り返すのみ。
この時、マレーシア出発の往復チケットを購入しており、日本へのフライトも全く同じクラスで飛んでいました。出発時のクアラルンプールでは何も問題なくチェックインできた荷物が、往復チケットの帰りの便で、しかも出発時より軽くなっている荷物で重量超過だと言われるのはさすがに納得できません。同じ航空会社の同じクラスで来る時に持ってきた荷物を帰る時には持って出られないという話なわけで、こちらとしては完全にハシゴを外されたような感覚です。しかし、何を言っても「規則ですので」の一点張り。そうなると、チケットに明記してあるだけに今までの慣習がどうであれこちらが圧倒的に不利です。
その時、隣でビジネスクラスのチェックイン手続きを行っていたベテランスタッフとおぼしき女性が、トラブルを察知したのか間に入ってきました。事情を尋ねられたためもう一度状況を説明した後、「預け荷物の重量制限について、運用方法が最近何か変わったということですか?」と確認すると、そのスタッフは明らかに心当たりがある表情を浮かべながら「あー、その点はですね・・・ご迷惑をおかけして申し訳ございません」との返事。このやりとりで、彼女の目と口調から口には出せない事情が何かあるという雰囲気が見えた(恐らく、そのことを暗に伝えようとしていた)ので、これ以上話をしてもダメだと理解しました。
このスタッフは、直接的なことは何も言わず言葉は濁していたものの、「時々、共同運航など提携している他社との間で難しい事情が出てくることもある」と教えてくれたので、何か問題となることがあり現場スタッフにも関連した通達があったのではないかと想像しています。
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ルール+許容範囲=慣習としての運用
超過料金は払いましたが、このトラブルについて納得できないと感じたのは以下の点です。
1)規則があるのは分かるが、これまで何年もの間それがあいまいに運用されていたのは事実で利用者としてはそのつもりでいたこと。2)ルールの運用が厳格化されるのであれば、これまでの慣習を考えると少なくとも利用者にその点を事前に注意喚起する必要があること。3)同じ航空会社の直行便往復チケットで出発時に大丈夫だったものが帰りの便ではダメだというのは、対応が難しいため利用者側が非常に不利になるということ。
こうやってみると、今回のオリンピックにおけるスキージャンプ失格のいざこざとやはり似ていると感じます。報道によると、これまでのジャンプW杯ではスーツのサイズ規定の運用において若干のあいまいさがあったようですし、もし厳格化するのであれば各チームにその旨を事前に通知すべきだったと批判されていることなど、トラブルの本質は同じようなところにあります。
もちろん、ルールを守っていないのがそもそも悪い、という意見は一定数あるでしょう。しかし、ルールにせよ法律にせよ、運用する側の裁量である程度の許容範囲が設けられていることが多く、基準から外れていてもその範囲内であれば単純にすべて“悪”とは言い切れません。例えば、日本の警察が高速道路を制限速度+数Km/hで走っている車を検挙することはまずないように、特定の許容範囲がそれなりの期間にわたって“暗黙の了解”として認知されている場合(=慣習となっている場合)は、運用側が突然それを予告なしに変更すれば確実に混乱が生じてしまいます。
トラブルの顛末
後日、マレーシア航空の本社に日本でのチェックイン時のトラブルについて伝え、重量制限を厳格に適用するにしろしないにしろ、場所によってルールの運用がバラバラだと利用者を混乱させるだけだというフィードバックを送りました。数日後に返信があり、「日本側(青い日系航空会社)とのコミュニケーションに問題があった」「お詫びとしてマイレージポイントを加算する」とのこと。別に超過料金の払い戻しを求めたわけでもないただのフィードバックに対して、後で確認すると日本へのフライト3往復分ぐらいのマイレージが足されていたので、恐らく社内の調査である程度の補償が必要なレベルの問題だと認識したということなんだろうと思います。
いずれにしても、ルールというのはその内容自体もともかく、運用の仕方がいかに重要かということを意識させられたトラブルでした。今回のスキージャンプの問題についてもルールの運用面で何かが上手くいっていないことは明らかで、今後選手にとっても観客・視聴者にとってもフェアな仕組みを作ってもらいたいと願ってやみません。
ちなみに、このトラブルから数か月後、マレーシア航空は預け荷物の重量制限を数Kg引き上げました。そして最後になりましたが、チェックインで途中から代わって対応してくれたベテランスタッフの方は、終始親切でプロフェッショナルだったということを記しておきます。