コーヒーの品種ノートです。
ゲイシャ (Geisha)
由来: | エチオピア在来種 |
豆のサイズ: | やや小さい |
収穫量: | やや少ない |
風味の質: | 素晴らしく良い |
初回収穫: | 4年目 |
さび病: | 耐性あり |
炭疽病: | 耐性低い |
線虫: | 耐性低い |
栽培適正標高: | 北緯5度~南緯5度:1,600m以上 北緯/南緯5度~15度:1,300m以上 北緯/南緯15度以上:1,000m以上 |
ゲイシャの歴史
現在世界で栽培されているアラビカ種の大部分は、ティピカまたはブルボンから派生しています。しかしゲイシャの場合、ティピカ・ブルボン系の品種とは出自が少し異なっています。
世界にゲイシャ種が知られるようになったのはここわずか10年あまりの話ですが、その始まりは今から80年以上前にさかのぼります。
1930年代に、エチオピア在来種の一つとして自生していたゲイシャが収集され、現在のタンザニア・コーヒー研究所 (TaCRI) の前身であるリャムング・コーヒー研究所へと送られました。その後、1950年代前半にゲイシャはコスタリカの熱帯農業研究教育センター (CATIE) に持ち込まれ*、そこでこの品種が持つさび病への耐性が注目されるようになります。
*その際、T2722というカタログ番号が付けられた
1960年代にパナマ各地でゲイシャ種を広めようとしますが、さび病には強いものの生産性が低い上、環境の変化にも敏感で育てるのが難しかったため生産者からは評判が悪く、結局当時広く栽培されることはありませんでした。
以来、何十年にもわたりいわば忘れられた存在となっていたゲイシャですが、2004年に転機が訪れます。
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パナマでは1996年以来「ベスト・オブ・パナマ (BOP)」というコーヒーの国際品評会を毎年開催していますが、この品評会に2004年にエスメラルダ農園が出品したゲイシャが審査員から絶賛され、当時史上最高の落札額 (US21ドル/lb=約5,000円/kg) を記録しました。こうして、長らく無名であった「ゲイシャ」の名が一夜にして世界に響き渡ったのです。金額はともかく、ゲイシャが表舞台に登場したことにより「ゲイシャ以前」と「ゲイシャ以後」ではスペシャルティコーヒーの業界全体がまったく変わってしまうほど、これは世界中のコーヒー関係者に強烈な衝撃を与える出来事となりました。
この年以降ゲイシャはその存在価値をますます高めてゆき、同時に価格もとどまるところを知らず上昇してゆきます。ちなみに2017年の「ベスト・オブ・パナマ」では、ナチュラル部門で1位となったロットがこれまでの記録を大幅に更新する落札額 (US601ドル/lb=約15万円/kg) となっています。
さて、ゲイシャという品種名は日本人にとっては耳慣れた響きですが、日本の「芸者」とは関係がありません。この種はエチオピアのゲシャという村 (ゲシャビレッジ) が起源とされており、そこから伝播するうちに発音がなまって「ゲイシャ」と呼ばれるようになったと考えられています。
一つ注意すべき点ですが、現在「ゲイシャ」または「ゲシャ」として流通しているコーヒーには、エチオピアのゲシャ村を起源としてはいるものの、パナマで栽培されてきたゲイシャとは遺伝的に異なる特徴を持つ品種も多く含まれています。現在非常に高い評価を受けているパナマのゲイシャは、1950年代に熱帯農業研究教育センター (CATIE) で「T2722」というカタログ番号が与えられた品種の子孫です。この特有の品種がパナマの土壌と気候、とりわけ標高の高い土地において50年以上にわたり生育してきた中で素晴らしい風味特性が培われたわけですから、「パナマゲイシャ」とその他の「ゲイシャ/ゲシャ」とは区別して考える必要があるでしょう。
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[参考資料]
World Coffee Research (2016) 「COFFEE VARIETIES of Mesoamerica and the Caribbean」, URL: https://worldcoffeeresearch.org/media/documents/Coffee_Varieties_of_Mesoamerica_and_the_Caribbean_20160609.pdf (参照日:2018年3月15日)
(2017年7月12日), The Best of Panama: The History of a Specialty Coffee Auction. Perfect Daily Grind, URL: https://www.perfectdailygrind.com/2017/07/best-panama-worlds-1st-coffee-competition-auction/ (参照日:2018年3月21日)