ここ最近、在住外国人にとって不都合となる制度や法令が増えてきていると感じるマレーシアですが、その一つが運転免許に関する法改正です。
(追記:2020年12月28日)
外国免許からの切り替えについて追加情報です。
これまで2年以上にわたり外国免許からマレーシア免許への切り替えが原則停止されていましたが、2020年12月28日付の現地日本大使館の情報によると、外交官ならびにマレーシア・マイ・セカンドホーム・プログラム (MM2H) ビザ保有者に加えて、いわゆる就労ビザや配偶者ビザ等の保有者に対しても免許切り替えが再開されたようです。現時点では、JPJの本局 (Wangsa Maju) とシャーアラム支局のみ受け付けているとのことですが、準備が整い次第他のJPJでも受け付けが再開されるものとみられます。
ただし、切り替えの申請に際しては以前よりもかなり必要書類が多くなっているため注意が必要です。詳しくは日本大使館の情報「外国運転免許証のマレーシア国内免許証への切替え再開について(2020年12月28日)」をご参照ください。
外国で車を運転するには
外国で車を運転するために必要な資格を持つには、基本的に2つの方法があります。一つは国際運転免許証を取得すること、もう一つは現地の運転免許証に切り替え (書き換え) ることです。
国際運転免許証 (日本の道路交通法の定義では「国外運転免許証」) は、自分が持っている有効な運転免許の発行国で交付されます。例えば日本の免許証を持っている場合、各都道府県の運転免許試験場で申請すれば約数時間後には受け取ることができます。海外旅行に出かける方や短期で海外に滞在予定の方は、通常この国際免許だけで特に不便はないでしょう。(日本が批准するジュネーブ条約に加盟していない一部の国を除く)
しかし国際免許の有効期限は1年間であり、更新するには帰国しなければいけないこと、また申請する度に発行手数料がかかることを考えると、長期滞在での使用には不向きと言えます。そのため、就労やセカンドホーム・プログラム等のビザを取得して外国に数年単位で滞在される方は、やはり現地の運転免許に切り替えることがほとんどだと思います。
(2022年3月31日:追記) 現地の日本大使館によると、これまで新型コロナのパンデミック中における特例として認められてきた有効期限切れの国際運転免許証による運転について、マレーシア政府は2022年4月1日以降は認めない方向で検討中とのこと。猶予期間があるのかどうかなどまだ不明な点もありますが、該当する方はご注意ください。
さて、マレーシアにおいてもこれまで在住外国人は現地免許に書き換えることが多く、自国の大使館で翻訳証明を出してもらえば、特に問題なく書類申請のみでマレーシアの運転免許証を取得することができていました。ところが2017年から、マレーシア政府は米国と英国の免許からの書類申請による切り替えを禁止、後にほぼすべての外国免許の書き換えを停止しました。
この件については在住外国人、とりわけ欧米人コミュニティの中で大きな問題となり、「まったく非常識な制度“改悪”だ」と怒りの声が多く挙がっていました。確かに、「マレーシアの免許が欲しけりゃ教習所に通え」というのは、多くの外国人がマレーシアよりもはるかに厳しい合格基準を持つ国で取得した運転免許を持っていることを考えると、単なる嫌がらせにしか聞こえないかもしれません。
おすすめ記事:「マレーシアで運転するなら注意したい 5つのポイント」
マレーシアでの免許取得は大変
では、現地の教習所で免許を取るのは難しいのでしょうか?
運転技術という観点だけで言うと、相当下手でも免許は取得できます。マレーシアにおける運転マナーや交通事故の多さを見れば、平均的なドライバーの運転技術と免許試験のレベルがどんなものか説明するまでもないでしょう。ただし、外国人が免許を取ろうとするとそこに大きな壁が立ちはだかります。それは言語です。
マレーシアの現地教習所の使用言語は基本的にマレー語です。都市部には「英語OK」とうたっている教習所も幾つかありますが、そういったところでも実際には教官が話すのは主にマレー語なのです。現在、マレーシアの免許取得のため教習所に通っている英語ネイティブの外国人によると、一応 “英語” で書かれた教科書や書類はあるものの、「たぶんインターネットで機械翻訳しただけの直訳のオンパレードで、半分ぐらいは意味不明」とのこと。本人にはまだまだ先が見えないという免許取得までの長い道のりですが、当人いわく「海外勤務で来てるのに、忙しく仕事しながら教習所にも通えとか絶対ムリ」と怒り心頭でした。
2年程前に、私自身も大型二輪の免許を取るため現地の教習所に通った経験があります。免許切替が禁止される前に取得したマレーシアの運転免許があったので、幸い筆記試験は免除でしたが、安全点検の試験やJPJ (マレーシア交通局: 日本で言うところの陸運局) 職員による講習、教習課程の説明、その他実技全般は全てマレー語でした。 (ちなみにこの教習所は「英語でもOK」と宣伝しているところです。)
ですから、英語での受験環境が広く整備されるまでは、外国人が現地教習所で免許を取得するのは (マレー語を理解できるのでない限り) 現実的には非常に負担が大きいと言えます。また例えそうなったとしても、英語で受験できるだけの語学レベルがないなら、日本人にとって現地の運転免許証の取得はよりハードルが高くなるでしょう。
関連記事:「【マレーシア】JPJで運転免許を更新する際のポイント」
切り替えた免許では国際免許が申請できない?
2018年には、在住外国人にとってさらに不利となる変更―教習所に通って取得した免許にのみ国際運転免許証を発行するという法令―が施行されました。言い換えると、他国の運転免許からの書き換えでマレーシアの免許を取得した方は、国際免許を申請できなくなったということです。
「国際免許申請について」(追記: 2019年3月8日)
本日、JPJで運転免許を更新したついでに国際免許を申請したところ、当地で取得した二輪免許だけでなく、日本からの書き換えである自動車の免許も無事に取得できました (国際運転免許証のカテゴリーAとBにスタンプが押される)。昨年の申請時に「外国免許から切替取得したものには発行できない」とあれだけ厳しく言われたのは何だったのかと思わずにはいられません。ただ、マレーシアの場合は係官のさじ加減である程度融通が利くこともあるので、今回たまたま担当者に気に入られただけなのか、または単なる見落としか、それとも法令が変わったからなのかは確認できませんでした。
外国人の書類申請などを扱うエージェントに聞いても、運転免許関係のルールは四六時中変わってるから自分たちもよく分からないとのこと。行政機関に電話で問い合わせても担当者によって返答が違うことは日常茶飯事ですし、公式ウェブサイトに載っている情報が間違っていることもしばしば。そういうものだと割り切って対応するしかないようです。
マレーシアの免許に切り替えた外国人の中には、以前持っていた他国の免許証はすでに失効しているという方もいることでしょう。今回の法改正により、今後そうした方はマレーシア以外の国で運転することができなくなるということになります。母国やその他ビザを取得している国であれば、帰国した際にマレーシアの運転免許から切替申請 (日本ではいわゆる「外免切替」) を行うことで当地の運転免許を取得することも可能でしょう。しかし、マレーシアで国際免許を申請できないとなると、旅行など短期で訪れる国において運転する資格がなくなってしまうのです。
(※ マレーシアで発行された運転免許証は、タイにおいては警察の検問等でもそのまま通用しました。その他の東南アジアの国ではまだ個人的に試していませんが、ASEAN加盟国内では基本的に有効だとのこと。)
スポンサーリンク
不利な変更は、こっそり突然やってくる
上に挙げたような法令の変更に関する告知は、JPJの公式ページを探しても見当たりません。 (少なくとも、普通のユーザーがチェックするようなページには載せられていません) 以前書いた免税店での外国人に対する購入制限もそうですが、こうした何か裏があるような法改正というのはいつも知らないうちに施行されており、メディアに取り上げられることもほとんどありません。主に影響を受けるのが外国人に限られている場合は、とりわけこの傾向が強いように感じます。
国際免許に関して新たに施行された法令も、私自身が提出した交付申請が却下されたことがきっかけで初めて気付きました。「バイクの免許はここで地元の教習所に通って取ったものだ」とその場で再申請してみたところ、今度は私の言い分が通じて二輪に限りこれまで通り国際免許が発行されました。とはいえ、同じ運転免許証に記載されているにも関わらず、書き換えだからという理由で自動車の運転資格のみ国際免許から削除するという論理は、どう考えても理解に苦しむと言わざるを得ません。(最新の状況については、上の「国際免許申請について」追記をご参照下さい。)
政権が変わると前政権の方針をひっくり返すような動きもよくあるマレーシア。在留外国人としては常に最新の情報を入手して、その都度必要な手続きを行うよう注意していくしかないようです。
おすすめ記事:「【マレーシア】繁華街の路上駐車で気をつけるべきこととは? 」
[参考資料]
(2018年10月4日), ‘Twelve JPJ officers arrested for issuing 14,000 fake driving licences’. the Sun daily, URL: http://m.thesundaily.my/node/578039 (参照日:2018年10月04日)
(2018年3月7日:誤字修正)
(2021年1月21日:テキスト追加・修正)
昨日、必要書類を揃えて、免許の書き換えを申請に行きましたが、受け付けてもらえませんでした。エージェントさんを通して行っていますが、自分で行った方が良いのかな?と感じました。私は配偶者ビザです。具体的にアドバイスいだたけたら、たすかります。
清水昌 様、
コメントありがとうございます。この度申請が上手くいかなかったのは残念ですが、これまでの経験から分かる範囲でお答えします。
1. 必要書類
書類は揃えられていたということで大丈夫かとは思いますが、日本大使館が発出している「外国運転免許証のマレーシア国内免許証への切替え再開について」という情報の中に、切り替え申請時に必要な書類のチェックリストをダウンロードできるリンクが載せられています。もしまだご覧になっていない場合は、そちらをご参照ください。(駐在者の配偶者パスの場合、チェックリスト最後のカテゴリー「Expatriate Spouse」が該当)
2. 申請可能なJPJ
2020年12月時点の日本大使館の情報によれば、切り替え申請ができるのはKL本局(Wangsa Maju)とセランゴール州のシャーアラム支局のみとなっています。現在までこの点に関して大使館からの追加情報は出てないことから、まだ他のJPJ支所では切り替え申請を受け付けていない可能性がありますので、申請をするのであればこの2か所のどちらかで行う方がよさそうです。
3. 本人による申請
おっしゃるように、運転免許関係についてはエージェントだと上手くいかないケースが少なくないようです。筆者の知人のエージェントも、ここ数年あまりに問題が多いので外国人相手の免許関連の代行業務は断っているとのこと。もし言葉の問題などもあり自力での申請は難しいという場合は、エージェントと一緒に申請者本人もJPJに同行するとトラブルが少ないようです。(何か疑義があってもその場で本人に確認できるため)
4. 担当者の当たりはずれ
「切り替え手続きを再開した」という情報は日本大使館が直接運輸省に問い合わせて確認したもので、「JPJのホームページ等に正式な通知は出ていない」とあります。そのため、JPJの担当者によっては最新の通達を熟知しておらず、以前と同様に「外国人の免許切り替えはすべてできない」と思い込んでいる係官がいる可能性もあります。そういう担当者に当たってしまった場合は、何か参考として提示できるマレー語での正式な通達や官公庁の公式サイト上の情報でも持っていない限り正直どうしようもありません。
筆者もこの件について熟知しているわけではありませんのでこれぐらいの情報しかお伝えできませんが、少しでもお役に立てば幸いです。
今後とも当ブログをよろしくお願いいたします。
情報提供ありがとうございます。
私は日本の中型免許を持っていますが、車の免許を取るには、筆記から受けなければなりませんか?
日本では、中型免許を持っていれば、筆記免除で実技のみ必要があります。
あぢやん 様、
コメントありがとうございます。
ご質問の件ですが、現地の教習所に通って一から免許を取る際は、同じマレーシア発行の免許証を所持している場合のみ条件を満たせば筆記免除の対象となります。
おっしゃっているような日本の“中型”免許(文脈から普通自動二輪のことを指していると理解します)の場合だと、そのままでは外国免許のため免除対象にはならず、基本的に筆記・実技ともに受ける必要があります。
マレーシア発行のB2(250cc)以上の二輪免許を持っていれば普通自動車免許の筆記は免除になるはずですので、まず日本でお持ちの普通二輪免許をマレーシアの免許証に書き換えをした上で、その後に現地教習所で普通自動車免許を取得されるということであれば、恐らく筆記試験は免除されるのではないかと思います。
以上、参考になれば幸いです。今後とも当ブログをよろしくお願いいたします。
主人が本日PJPにシンガポールの免許を持って書き換えに行ったところ、拒否された模様です。主人はシンガポール人ではありません。
シンガポールの免許のみ書き換えできるという情報は確かでしょうか?
チキン 様、
コメントありがとうございます。ご主人さんがわざわざ足を運ばれたものの書き換えができなかったのは残念です。
以前にJPJが「シンガポール以外の他国免許からの切り替えを原則停止」と発表して以来、新たにシンガポールも禁止リスト入りしたというニュースは耳にしていません。ただし、11月1日からMM2Hビザ保有者に限って再開された他国免許からの切り替えに関して、「本国の有効な免許を持っている場合」というJPJ局長のコメントが報道されており、もしかするとご主人の場合この条件が引っかかったのではないかと思われます。今までは一律シンガポールの免許は書き換えできるという扱いであったものが、現時点では「シンガポール人がシンガポールの免許を持っている場合のみ書き換えできる」という扱いになっているのかもしれません。
JPJの法令は短期間で目まぐるしく変わっており、手続き等を手掛けるエージェントはもちろんのことJPJのオフィサーですら何が最新の規則なのか把握していないことも日常茶飯事です。判断基準があいまいなものについては、正直なところ担当オフィサーのさじ加減次第というところも多々あります。今回のようになにか変更が加えられた直後というのは予想しないトラブルが起きやすいですが、少し落ち着いてくるとまた基準が緩和されたり適用が甘くなったりする可能性は高いと思います。
今回寄せてい頂いたコメントの内容を踏まえて、記事中でも注意喚起しておきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
今年の27日に更新されてるけど
今もなんですかこれ?
この切替停止措置は期間が未定のまま発令されており、以前の状態に戻ったという情報は現時点で把握していません。
現地日本大使館の情報でも、昨年10月4日に出されたお知らせを最後に本件の新たな情報は更新されていないことから、暫定停止措置はいまだに解除されていないものと理解しています。
参考:在マレーシア日本国大使館ホームページ「運転免許証の当国での書き換え一時停止について (https://www.my.emb-japan.go.jp/itpr_ja/newinfo_01102018A.html)」
今後状況に変化があった場合は、停止措置が取られた時と同様、マレーシア外務省から各国大使館へその旨通知がなされるものと思われます。
MM2Hホルダーです。先週、すでに所有しているマレーシアの免許の更新にシャーアラムのJPJ行って来ました。写真、パスポート、手数料を持って窓口で更新申請し30分位で新しい免許もらいました。手数料は1年60リンギになっていましたが・・・。ということで、すでに所有している免許の更新(Renew)については今のところ問題無いようです。
T.Tanaka 様、
貴重な情報をお寄せ頂きありがとうございます。
コメントして頂いた通り、元々が外国免許からの書き換えであっても既に発行済みの免許に関しては制限はかかっていないようですね。
せっかく最新情報を頂きましたので、記事中にもこの点を含められるよう内容を追加修正しました。
今後ともよろしくお願いいたします。
PJPのツイッターに、違法に取得した免許は9/13から一ヶ月以内に返納すれば罪に問わない、というメッセージが日替わりで掲載されていますね。
あと、国別ルールはこちら。
http://www.mm2h.gov.my/pdf/mm2h11.pdf
USA,UKは、自動書換えできない(実質禁止)という理解でよろしいか?
コメントならびにMM2Hのリンクありがとうございます。
おっしゃる通り、JPJは違法に交付された14,000の運転免許については特定しており、返納のための一か月の猶予期間を過ぎれば法的措置を取るということのようですね。
該当する外国人の中には、免許書き換えをエージェントに全部任せて言われるがままにお金を払っていた場合など、自身の免許取得に際して違法行為が行われたと認識していない人も多いかもしれません。ただそういう人たちは今回のニュース自体も把握していない可能性がありますし、たとえ該当していたとしても自力で一か月以内に返却できるかどうかは疑問です。
英国と米国で発行された免許の書き換えについては、今回の全面的な停止措置が取られる前から禁止になっていましたので、この両国の免許からマレーシアの免許への自動切り替えは基本的にできないという考えでよいと思われます。
マレーシアの運輸局に問い合わせ、
正式に日本の免許から書き換え可能と回答を得ました。
NGになったのは、UKとUSの二カ国です。
訂正を。
まい様、
情報提供して下さりありがとうございます。
該当箇所を修正しました。
今後ともよろしくお願いいたします。