コーヒーの話

遺伝子組み換えしたコーヒー豆ってあるの?

投稿日:2023年2月10日 更新日:


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コーヒーと遺伝子組み換え

“コーヒー豆に遺伝子組み換えしたものはあるのか?”

スペシャルティコーヒーに関わる様々な情報を発信している「Perfect Coffee Grind」でこの点を扱った記事を読むまで、筆者も正直全く意識したことがなかった疑問でした。

生態系への影響や人体への安全性について懸念する声が少なくない遺伝子組み換え作物(GMO)ですが、すでにGMOが世界全体の流通量に大きな割合を占めているものもあります。例えば、大豆綿花トウモロコシなどが代表的な遺伝子組み換え作物として挙げられます。

なぜ遺伝子組み換えが行われるのかというと、遺伝子操作によって除草剤への耐性や特定害虫への抵抗性(毒性)を獲得した作物は収量がアップしたり連作が可能になったりと、生産者にとってさまざまなメリットが生まれるからです。結果として、一定の品質の作物を安定して供給できる=価格が抑えられることから、消費者側の利益にもつながっているという見方もあります。

その点で言えば、コーヒーも害虫やウイルス、気候など外部の要因が生育や収穫に大きな影響を与える作物です。では、そうしたリスクを減らすために遺伝子組み換えしたコーヒーというのはあるのでしょうか?

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市場には流通していないGMOコーヒー

全米コーヒー協会 (NCA) は、現時点で「市場に出回っているコーヒーに遺伝子組み換えしたものはない」との見解を示しています。(参考:”What You Need to Know About GMOs“. NCA Official Site)

しかし、よく見ると「市場に出回っている」と前置きされていることが気になりますよね。そうなんです、存在するかしないかで言うと、遺伝子組み換えコーヒーは存在しています。ただし、私たち一般の消費者が手にする可能性は今のところないようです。

「Perfect Daily Grind」によると、フランス国際農業開発研究センター (CIRAD) が、南米の仏領ギアナにある施設において遺伝子組み換えしたロブスタ種を試験栽培するプロジェクトを2005年に実施していたとのこと。その結果、コーヒー栽培における害虫の一つである「Coffee leaf miner」という小さなガに対して完全な耐性を持った株がおよそ7割に上ったという成果が報告されています。しかし、これは商業生産を目的として開発したわけではなくあくまで科学的知見を深めるための研究栽培であり、市場へ流通することもありませんでした

ハイブリッドと遺伝子組み換えは別物

先に述べたフランス国際農業開発研究センター (CIRAD) と言えば、さまざまな品種の開発に成功している世界有数のコーヒー研究機関です。当ブログでもコーヒーの品種として取り上げた「スターマヤ」「マルセレサ」「セントロアメリカーノ」「カシオペア」などは、すべてCIRADが開発に関わっています。

セントロアメリカーノやスターマヤというのは、より環境耐性や病害虫耐性を備えられるようできるだけ異なる性質を持つ品種同士をかけ合わせて開発したもので、こうして生まれた品種をまとめて「ハイブリッド」と呼ばれています。その第1世代 (First Generation) を指して「F1ハイブリッド」と言うこともあります。人工的に手を加えていることから遺伝子組み換えと同じようなものだと考えてしまう人もいるかもしれませんが、ハイブリッドと遺伝子組み換えは根本的に異なります

遺伝子組み換え作物は、遺伝子を人為的に操作して自然界では起こりえない変異を作り出したものですが、コーヒーにおけるハイブリッドというのは、株の選別や人工授粉など、あくまで自然界でも起こり得る枠内で人の手が関与することにより特定の望ましい性質を備えた品種のことです。ただ、固定種の場合は収穫した果実から種を取って植えれば次の世代も同じものができますが、ハイブリッドの場合、ほとんどが次世代になると親の持っていた性質が変化してしまうという問題を抱えています。(スターマヤは例外)

ここで言うハイブリッドとは少し異なりますが、多くの品種の交配のベースとなっているティモール・ハイブリッド(アラビカ種と病害虫耐性をもつロブスタ種の異種間交配)は、そもそも1920年代に東ティモールで発見された人の手によらない自然交配種です。珍しいことではありますが、自然界においてもこうした異種間交配が起こることを見れば、ハイブリッド種が遺伝子組み換え作物とは全く違う類のものであるということが分かるでしょう。

まとめ

こうして考えると、私たちが普通に飲む可能性という意味において現時点では遺伝子組み換えしたコーヒーというのは存在しないと言ってもよいでしょう。しかし、世界的なコーヒー需要の高まりに加え、遺伝子多様性が非常に低い現在のコーヒー栽培の状況、また気候変動や病害虫による収穫不良など供給面での不安定要素が増えていることも考えると、いつかはGMOコーヒーが流通する時が来るのかもしれません。

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[参考資料]
(2023年1月2日) “Does GMO coffee exist?”. Perfect Daily Grind. URL:https://perfectdailygrind.com/2023/01/does-gmo-coffee-exist/?utm_source=Klaviyo&utm_medium=campaign&_kx=RzY40t4OsgTTmJ65XHtekYRnybmaHT_lpBdYAQ9MHCg%3D.WsEz8z (参照日:2023年2月10日)
“F1 Hybrid Trials”. Perfect Daily Grind. URL:https://worldcoffeeresearch.org/programs/next-generation-f1-hybrid-varieties (参照日:2023年2月10日)


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