マレーシア地元情報

【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアにおける活動制限令 (MCO) と今後の見通し

投稿日:2020年3月22日 更新日:


クアラルンプール市内 by Matt Stabile on flickr

当ブログでは「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの感染状況は?」と「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの活動制限令について分かっていること」の記事を随時更新して現地の情報をお伝えしていますが、今回は3月18日から施行された活動制限令 (MCO) の分析とマレーシアの今後の見通しについて書きたいと思います。

活動制限令 (MCO) は意味があるのか

KL郊外のモスクにおけるイスラム教の大規模集会で発生したクラスター (集団感染) による急激な感染拡大が懸念されたため、マレーシア政府は3月18日から同月31日までの期間で活動制限令 (Movement Control Order) を施行しています。日常生活に不可欠なもの以外の活動をできるだけ縮小することで感染の急速な拡大を防ぐ意図がある今回の制限令ですが、その効果を疑問視せざるを得ない点も幾つか観察されています。

(2020年3月25日:追記) マレーシア政府は、活動制限令 (MCO) を4月14日まで2週間延長すると発表しました。

制限令発表前後の大移動

Malaysia traffic

by Uwe Schwarzbach on flickr

発表されたのは3月16日夜、施行は18日からというタイミングだった活動制限令 (MCO)。16日の日中からすでに市民の間では「外出禁止令や都市封鎖令が出るかもしれない」という噂が流れており、そのため16、17両日は多くの人が制限令施行前に実家へ帰省するため移動を始めました。高速道路やサービスエリアは渋滞し、高速バスのチケット売り場や乗り場も大混雑

制限令により人の接触を減らすことが目的だったにも関わらず、施行前後に大規模な接触の機会を作り出してしまった感が否めません。さらに、制限令前に大規模な帰省ラッシュを許したため、感染の可能性のある人を全国に拡散してしまったことも否定できないでしょう。事実、保健省の前高官は “この時点ですでに活動制限令は失敗した” という主旨のコメントをしており、専門家の中でも懸念の声が上がっています。(参考ーThe Star:”Former deputy Health DG: Movement control not well thought-out, poorly executed“)

制限令前に始まった公立学校の春休み

マレーシアの公立学校は3月16日から一週間の春休みだったため、直前の週末にはすでに多くの家族がマレーシア国内で旅行や帰省に出かけていました。感染の拡大を防ぐためには人の移動を規制することが重要ですが、春休みのため制限令が出る前に相当数の移動が始まっていたというのは非常に残念なポイントです。あと数日早ければ制限令の効果もより高かったのにと思いますが、今さら言っても遅いですね。

真剣に受け止めない市民

制限令施行1日目はさぞかし人の姿が見えなくなると思いきや、普段と全く変わらず人であふれる市場や飲食店が全国各地で見られました。「持ち帰りに限り営業を許可する」と言われていた飲食店では、“持ち帰り用”の食事を受け取るとその場で開けて食べ出す客も。そうなるとなし崩し的に飲み物も提供され、制限が完全に骨抜きになっていました。こうした状況に業を煮やした政府は、警察や役所による巡回の強化や罰金を伴う違反者へのペナルティなど、追加の規制を適用して制限を順守させようとしています。

一方、日常生活に不可欠な活動は許されているものの、普通に友達や親戚に会いに行ったり、買い物のついでにその他の活動を行ったりする様子も広く見られています。当初は警察も違反者への勧告・警告のみでとどめていましたが、徐々に対応が厳しいものに変化。また政府も当初は否定していた軍の投入を決定し、22日以降は軍と警察が共同で制限令の順守徹底にあたるとのこと。

準備不足のまま施行された制限令

新型コロナの国内感染状況をふまえ、制限令自体は必要なものだということを多くの市民も理解しています。しかし、みなが固唾をのんでテレビ中継を見ていた16日夜のムヒディン首相の制限令発表では、基本的に手元の文書を読んでいるだけ、しかも明らかに詳細が詰められていない制限だったため大きな混乱を招きます。

ホテルが営業停止になるのなら、今いる宿泊客はどうなるのか」「飲食店は営業していいのか?フードトラックは?」など、ある程度事前準備があれば当然検討されているべき情報が初期の段階で全く出てこなかったため、「どうなるか分からないから、念のために買いだめを」と考えた市民のパニック買いを引き起こします。当然ながら発表から施行までの猶予となった17日は、食料品や日用品を扱う店はどこも客が殺到し大混雑となりました。

その後もホテルやフードトラックの営業規制について二転三転した上、「州をまたぐ移動は警察の許可がいる」と発表したものの各地の警察署に申請者が殺到したのを見て、数時間後には「とりあえず保留」と規制を事実上撤回。また、外出が許される条件も下のように毎日変化しています。

必要な用事であれば外出してよい (屋外での散歩等は特に規制なし)

必要な用事以外外出しないように (散歩等の屋外での活動は禁止)

必要な用事でも子連れ等家族で外出しないように

必要な用事は家族の代表者1名のみ外出を許可する

今後さらに厳しい規制を施行する」(今ココ)

もちろん、緊急事態において最初から完璧なリストを出すのは難しいでしょう。しかし、施行後の混乱ぶりを見ると、ほんの少しシミュレーションしていれば気づくような問題でもまともに検討されたとは考えにくく、後付けで色々な禁止事項が増えていくのを見て市民はますます不安を抱くという悪循環に陥っています。

極め付きは、後から「お前ら (一般市民) が言う事聞かないから軍を展開させる」と政府が言ってしまったこと。移動を制限する際に軍を入れること自体は他国でもやっているので珍しくはないわけですが、軍を投入するのにこういう理由付けをするのは色んな意味でマズいだろうなと外国人ながら感じてしまいます。

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今後の見通し

今回の活動制限令 (MCO) で感染拡大のペースが緩やかになれば、それに越したことはありません。ただし、上に挙げたような懸念される点を考えると、当初の制限令期間中に劇的な状況の改善が見られる可能性は低いのではないかと思います。今後の見通しについて、現時点では次のような点が考えられます。

活動制限令 (MCO) の延長も

現時点では3月31日までと発表されている活動制限令 (MCO)。施行1週目はまだ一定の割合 (1日あたり100~150名程度) で感染者は増えると見られますが、他国で感染が爆発的に増えた時間軸と比べると、マレーシアの場合はまず23日、24日あたりがカギになるのではないかと思います。このあたりで急激な増加がなければ、月末にかけて感染のカーブが緩やかになっていく可能性があります。

(2020年3月26日:追記) 当初一日あたり100名少しの増加で推移していたのが、212名 (3/23)、106名 (3/24)、172名 (3/25)、235名 (3/26) と、ここ数日の感染者増加率は残念ながら加速しているようです。制限令2週目以降に感染者の増加がどのような変化を見せるのか、マレーシアの新型コロナ防疫において非常に重要な局面と言えます。

一方、制限令施行前後に起きたパニック買いや帰省ラッシュによる大規模な集団接触が新たな感染拡大を引き起こした可能性もあり、その場合は当初の制限令終了日である31日にかけても増加が続く、もしくは感染速度が上がる可能性があります。また、KL (クアラルンプール) やセランゴール州以外での感染が収まらない場合、帰省終了後に他の州から戻ってくる人が首都圏で感染を拡大させる可能性は大きな懸念材料となります。

(2020年3月25日:追記/3月26日更新) イスマイル・サブリ (Datuk Seri Ismail Sabri) 国防大臣は3月24日、現在帰省している人たちは、都市部に戻って来てはいけない」と明言。当局はすでに23か所の高速道路料金所で検問を実施しており、警察が帰省から戻って来る車の通行を許可しないとの見解を示しました。活動制限令 (MCO) 前日に保留となっていた州をまたぐ移動の制限については、現在事実上禁止されていると見てよいかもしれません。(参考―The Star:”Ismail Sabri: 95% compliance rate on the sixth day of MCO“)

さらに保健省は3月23日、感染拡大に備えるためすでに退職した医師・看護師を2,000人再雇用する予定であると発表。また翌24日には、感染者に対応するため全国33か所の病院で3,000床を確保したと発表しました (3月26日現在は34か所3,500床とのこと)。この規模を考えても、マレーシア政府がさらなる感染者の急速な増加を想定していると見てよいでしょう。

加えて隣国のシンガポールタイでもここにきて感染者の増加が加速しており、そうした状況を考えると3月末でマレーシアの防疫体制を緩めるのは適切なタイミングではないと政府が考えたとしても不思議ではありません。ムヒディン首相も当初から「状況によっては延長する可能性がある」としており、施行2週目の状況次第では制限令の期間がさらに延長される可能性は十分にある(注)と考えておいた方がよいでしょう。(注:3月25日、マレーシア政府は制限令を4月14日まで2週間延長しました。)

軍が投入されることの意味

Malaysia Armed Forces

by Firdaus Latif

3月22日より政府は軍を投入、警察と共同で活動制限令 (MCO) の施行徹底にあたるとしています。しかし、公式に言われているような、“一部市民が制限令に従っていない”というだけの理由で軍を動かすというのはいささか疑問が残ります。制限令期間中、感染が急速に拡大した場合にはさらなる移動制限や一部地域の封鎖が必要となると見られていますが、そうした事態になると警察だけではなく軍の展開が求められるのは当然予想されます。

また、制限令が延長となった場合、帰省した人たちの首都圏へのリターンを防ぐため、かねてから言われている州をまたぐ移動の制限が厳格に行われる可能性もあります。とりあえず現時点では“警察を補助するため”という理由で首都圏に軍を展開させておいて、いざとなれば首都圏へのアクセスを短時間で遮断できるよう準備しているという可能性も決してゼロではないはずです。

現在セランゴール州など幾つかの州では夜間の営業停止措置を独自に実施していますが、今後政府によりマレーシア全土で夜間の営業禁止、または夜間外出禁止令などの措置が取られる可能性もあります。その際は、当然軍のプレゼンスも施行を徹底する上で大きな要素となるでしょう。

一連の流れを見ていると、そもそもどこかの時点での軍の投入が既定路線だったんじゃないかという印象も捨てきれません。制限令公布当初から、軍の展開に対して当局の見解は次のように変わってきています。

軍の投入は考えていない

60%~70%程度の低い制限令順守率が続けば、田舎の地域などは軍の展開も選択肢

順守率は改善したが、警察を補佐するため首都圏も含め軍を投入する

順守率は90%ぐらいになったが、残り10%が大きな問題。より強硬な手段も選択肢」(今ココ)

これを見ると、市民のパニックや拒否反応を抑えながらいつの間にか全国に軍を展開した経緯が分かると思います。実際、順守率がどうこうというのもとりあえずの表向きの理由に過ぎないように聞こえます。ここ最近、政府高官や当局者のコメントでも「“今のところ” 軍が武器を携行する必要はない」「“現時点では” 軍は警察にアドバイスするだけ」といった言い回しが頻繁に見られるようになり、まるで今後状況が変わることを暗にほのめかしているような感じが気になります。在留邦人としてはパニックになる必要はありませんが、あまり事態を軽く見すぎるのも危険でしょう。

首都圏や一部の州・市が封鎖される可能性は

Concrete barricade

by HurwiczRocks

現時点ではそこまでの措置をとる状況にはないと思われますが、一部地域で感染が急拡大した場合には相応の移動制限がかけられるとしても無理はありません。上で述べたようにすでに軍が首都圏に展開しているという現状を考えると、現実に起こるかどうかは別として、今後封鎖が必要になった際にも即応できる態勢は整いつつあるとみてよいでしょう。

活動制限令 (MCO) 施行前夜に、警察当局が「州をまたぐ移動は警察の許可を得るように」と言ったものの数時間後に取り消した (正確には効力を一時停止した) ケースは、結局翌日に再検討すると言ったきり続報なし。もしかするとその背景には、警察の代わりに今後軍が規制に入る可能性があるからではないかという見方もあります。

(2020年3月25日:追記) 「帰省した人は戻ってきてはいけない」「高速道路の検問で警察はそうした通行を許可しない」と述べた3月24日の国防大臣の発言を見ると、州をまたぐ移動はすでに事実上禁止されていると見てよいかもしれません(参考―The Star:”Ismail Sabri: 95% compliance rate on the sixth day of MCO“)

本来は22日までだった公立学校の春休みが31日までに変更となりましたが、これも単純に制限令の終了予定日に合わせたからなのか、それとも今後実施される何らかの措置のために人の移動を止めたかったからなのか、なかなか判断がつきにくいところです。軍が投入されるのがちょうど22日というのも、いささか気になるタイミングではあります。

現在の制限令下でも、徐々に自宅から外に出られないように規制が厳しくなってきています。今後もし夜間の外出が原則禁止されることになれば、首都圏の封鎖というのも現実味を帯びてくるかもしれません。今後も動向を注視する必要があります。

(2020年3月26日:追記) イスマイル・サブリ国防大臣は3月26日、制限令の延長に伴い「より厳しい制限を施行することになる」と発言。週末に国家安全保障会議が内容を発表するとのことで、すでに大きく制限されている日常生活にどれほどの影響を与える内容になるのか注意が必要です。

国家非常事態宣言が出される可能性は

現在のところ、マレーシア政府は非常事態の宣言について考えていないという立場を示しています。(参考―The Star:”Cops rubbish recording claiming state of emergency will be declared“)

しかし世界を見ると、アメリカをはじめ同じ東南アジアのフィリピンなど、今回の新型コロナウイルス感染を深刻な危機をとらえすでに国家非常事態を宣言した国は2ケタに上ります。予算や権限において政府により大きな力を与えることになる国家非常事態宣言は、国内における感染拡大の状況次第ではマレーシアにおいても必要となることが考えられます。

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まとめ

世界各地の報道を見ても分かるように、正直言って今後どうなるのか1週間後の状況を予想することすら難しい情勢です。そうではあっても、いきなり不意を突かれるよりは、可能性を幾つか頭に入れておくことで対処の幅も広がりますし、何より落ち着いて状況を判断しやすくなります

マレーシアの場合、今日許可されていたことが次の日には禁止される (またはその逆) など、一日にして法令の適用基準が変わることも珍しくありません。お友達やご近所のマレーシア人ローカルと情報交換するなど、在留邦人の皆さまも日本語のものも含めデマ情報には気を付けつつ、常に最新のニュースを入手するようになさってください。

(2020年3月25日:テキスト追加・修正)

 


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