マレーシア地元情報

【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアにおける活動制限令 (MCO) と今後の見通し

投稿日:2020年3月22日 更新日:


クアラルンプール市内 by Matt Stabile on flickr

当ブログでは「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの感染状況は?」と「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの活動制限令について分かっていること」の記事を随時更新して現地の情報をお伝えしていますが、今回は3月18日から施行された活動制限令 (MCO) の分析とマレーシアの今後の見通しについて書きたいと思います。

(2020年4月9日) 活動制限令の再延長も視野に入ってきたため、現状をより反映できるよう記事を加筆修正しました。

本記事は活動制限令フェーズ2から3 (4月28日まで) 当時の状況を扱っています。5月4日以降は条件付き活動制限令 (CMCO) が施行され、各種制限が大幅に緩和されていますのでご留意ください。

活動制限令 (MCO) は意味があるのか

KL郊外のモスクにおけるイスラム教の大規模集会で発生したクラスター (集団感染) による急激な感染拡大が懸念されたため、マレーシア政府は3月18日から活動制限令 (Movement Control Order) を施行しています。日常生活に不可欠なもの以外の活動をできるだけ縮小することで感染の急速な拡大を防ぐ意図がある今回の制限令ですが、その効果を疑問視せざるを得ない点も幾つか観察されています。

制限令発表前後の大移動

Malaysia traffic

by Uwe Schwarzbach on flickr

発表されたのは3月16日夜、施行は18日からというタイミングだった活動制限令 (MCO)。16日の日中からすでに市民の間では「外出禁止令や都市封鎖令が出るかもしれない」という噂が流れており、そのため16、17両日は多くの人が制限令施行前に実家へ帰省するため移動を始めました。高速道路やサービスエリアは渋滞し、高速バスのチケット売り場や乗り場も大混雑

制限令により人の接触を減らすことが目的だったにも関わらず、施行前後に大規模な接触の機会を作り出してしまった感が否めません。さらに、制限令前に大規模な帰省ラッシュを許したため、感染の可能性のある人を全国に拡散してしまったことも否定できないでしょう。事実、保健省の前高官は “この時点ですでに活動制限令は失敗した” という主旨のコメントをしており、専門家の中でも懸念の声が上がっています。(参考ーThe Star:”Former deputy Health DG: Movement control not well thought-out, poorly executed“)

制限令前に始まった公立学校の春休み

マレーシアの公立学校は3月16日から一週間の春休みだったため、直前の週末にはすでに多くの家族がマレーシア国内で旅行や帰省に出かけていました。感染の拡大を防ぐためには人の移動を規制することが重要ですが、春休みのため制限令が出る前に相当数の移動が始まっていたというのは非常に残念なポイントです。あと数日早ければ制限令の効果もより高かったのにと思いますが、今さら言っても遅いですね。

真剣に受け止めない市民

制限令施行1日目はさぞかし人の姿が見えなくなると思いきや、普段と全く変わらず人であふれる市場や飲食店が全国各地で見られました。「持ち帰りに限り営業を許可する」と言われていた飲食店では、“持ち帰り用”の食事を受け取るとその場で開けて食べ出す客も。そうなるとなし崩し的に飲み物も提供され、制限が完全に骨抜きになっていました。こうした状況に業を煮やした政府は、警察や役所による巡回の強化や罰金を伴う違反者へのペナルティなど、追加の規制を適用して制限を順守させようとしています。

一方、日常生活に不可欠な活動は許されているものの、普通に友達や親戚に会いに行ったり、買い物のついでにその他の活動を行ったりする様子も制限令初期には広く見られました。当初は警察も違反者への勧告・警告のみでとどめていましたが、徐々に対応が厳しいものに変化。また政府も当初は否定していた軍の投入を決定し、3月22日以降は軍と警察が共同で制限令の順守徹底にあたっています。

準備不足のまま施行された制限令

新型コロナの国内感染状況をふまえ、制限令自体は必要なものだということを多くの市民も理解しています。しかし、みなが固唾をのんでテレビ中継を見ていた16日夜のムヒディン首相の制限令発表では、基本的に手元の文書を読んでいるだけ、しかも明らかに詳細が詰められていない制限だったため大きな混乱を招きます。

ホテルが営業停止になるのなら、今いる宿泊客はどうなるのか」「飲食店は営業していいのか?フードトラックは?」など、ある程度事前準備があれば当然検討されているべき情報が初期の段階で全く出てこなかったため、「どうなるか分からないから、念のために買いだめを」と考えた市民のパニック買いを引き起こします。当然ながら発表から施行までの猶予となった17日は、食料品や日用品を扱う店はどこも客が殺到し大混雑となりました。

その後もホテルやフードトラックの営業規制について二転三転した上、「州をまたぐ移動は警察の許可がいる」と発表したものの各地の警察署に申請者が殺到したのを見て、数時間後には「とりあえず保留」と規制を事実上撤回。また、外出が許される条件も下のようにどんどん変化しています。

必要な用事であれば外出してよい (屋外での散歩等は特に規制なし)

必要な用事以外外出しないように (散歩等の屋外での活動は禁止)

必要な用事でも子連れ等家族で外出しないように

必要な用事は家族の代表者1名のみ外出を許可する

必要な用事は代表者1名のみ、基本半径10km圏内に限り許可する」(今ココ)

もちろん、緊急事態において最初から完璧なリストを出すのは難しいでしょう。しかし、施行後の混乱ぶりを見ると、ほんの少しシミュレーションしていれば気づくような問題でも十分に検討されたとは考えにくく、後付けで色々な禁止事項が増えていくのを見て市民はますます不安を抱くという悪循環に陥っています。

極め付きは、後から「お前ら (一般市民) が言う事聞かないから軍を展開させる」と政府が言ってしまったこと。移動を制限する際に軍を入れること自体は他国でもやっているので珍しくはないわけですが、軍を投入するのにこういう理由付けをするのは色んな意味でマズいだろうなと外国人ながら感じてしまいます。

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今後の見通し

今回の活動制限令 (MCO) で感染拡大のペースが緩やかになれば、それに越したことはありません。ただし、上に挙げたような懸念される点を考えると、当初の制限令期間中に劇的な状況の改善が見られる可能性は低いのではないかと思っていましたが、実際予定されていた期間からさらに2週間延長となりました。今後の見通しについて、現時点では次のような点が考えられます。

活動制限令 (MCO) の再延長も

すでに一度延長して4月14日までと発表されている活動制限令 (MCO)。施行1週目は1日あたり100~150名程度の新規感染者が出ていましたが、うまくいけば2週目の終わりにかけて感染のカーブが緩やかになっていくというのが当局の想定でした。しかし、3月23日には新規感染者が200名を超え、2日後の25日にも再び200名を大幅に超えるなど、当初の制限令期間内に期待されていたような感染拡大の減少は見られませんでした。

一つ明るいニュースとしては、欧米のような爆発的な感染拡大は現時点で抑えられているということ。しかし、KL (クアラルンプール) やセランゴール州以外での感染が終息しない場合、足止めされていた人が規制終了後に他の州から戻ってくることにより、首都圏での感染をさらに拡大させる可能性は大きな懸念材料となります。

保健省は3月23日、感染拡大に備えるためすでに退職した医師・看護師を2,000人再雇用する予定であると発表。また翌24日には、感染者に対応するため全国33か所の病院で3,000床を確保したと発表しました (3月26日現在は34か所3,500床とのこと)。この規模を考えても、マレーシア政府がさらなる感染者の急速な増加も想定していると見てよいでしょう。

加えて隣国のシンガポールタイでも感染者の増加が加速したことから、当初の制限令期限としていた3月末でマレーシアの防疫体制を緩めるのは適切なタイミングではないという政府の判断も働いたことでしょう。ムヒディン首相は制限令当初から「状況によっては延長する可能性がある」としており、その言葉どおり1週目が終わった時点でさらに2週間の延長を決定しました。

制限令も現時点で4週目に入りましたが、相変わらず1日当たり約150~200名の新規感染者が発生しており、爆発的な増加こそ抑えられているものの感染カーブが緩やかになる兆候はまだありません。保健当局も4月8日に「ウイルスとの戦いに勝ってはいないが負けてもいない」とコメントしており、厳しい制限を施行しているにもかかわらず目に見える効果がまだ見られていない現状が浮き彫りになっています。

専門家は「せめて新規感染者が1日あたり50名以下になる必要がある」としており、現状を見る限りではフェーズ2が4月14日までとなっている活動制限令 (MCO) の再延長が濃厚となってきました。(参考―The Star: “MCO should be extended, say health experts“)

(2020年6月8日:追記) 政府当局は、回復のための活動制限令 (RMCO) 6月10日から8月31日まで施行すると発表しました。(参考―The Star: “More relaxation on public activities“)

軍が投入されることの意味

Malaysia Armed Forces

by Firdaus Latif

3月22日より政府は軍を投入、警察と共同で活動制限令 (MCO) の施行徹底にあたっています。しかし、公式に言われているような、“一部市民が制限令に従っていない”というだけの理由で軍を動かすというのはいささか疑問が残ります。

制限令が一度延長となった前後には、恐らく帰省した人たちの首都圏へのリターンを防ぐためと思われますが、かねてから言われていた州をまたぐ移動の制限が厳格に。イスマイル・サブリ (Datuk Seri Ismail Sabri) 国防大臣は3月24日、「現在帰省している人たちは、都市部に戻って来てはいけない」と明言。当局はすでに23か所の高速道路料金所で検問を実施しており、警察が帰省から戻って来る車の通行を許可しないとの見解を示しました。活動制限令 (MCO) 前日に保留となっていた州をまたぐ移動の制限については、現在事実上禁止されていると見てよいかもしれません。(参考―The Star:”Ismail Sabri: 95% compliance rate on the sixth day of MCO“)

こうした状況を考えると、とりあえず現時点では“警察を補助するため”という理由で首都圏に軍を展開させておいて、いざとなれば首都圏へのアクセスを短時間で遮断できるよう準備しているという可能性も決してゼロではないはずです。

実際、これまでに集団感染が発生した幾つかの地域や集合住宅が EMCO (強化された活動制限令) の対象となりましたが、その際は軍が出動して鉄条網を張り巡らせるなど完全封鎖が行われています。今後も状況次第ではEMCOの対象地域、またはその他封鎖が必要と判断された地域で同様の措置が取られることが想定されます。

当初の制限令には営業時間や外出時間の制限等は特に含まれていませんでした。しかし、制限令3週目以降は予想していた通り許可されている業種の営業時間を午前8時から午後8時までに制限、夜間の自家用車使用禁止、公共交通機関の運行時間短縮といった追加措置が実施され、検問や道路封鎖においては軍のプレゼンスもこうした規制を徹底する上で大きな要素となっています。

一連の流れを見ていると、そもそもどこかの時点での軍の投入が既定路線だったんじゃないかという印象も捨てきれません。制限令公布当初から、軍の展開に対して当局の見解は次のように変わってきています。

軍の投入は考えていない

60%~70%程度の低い制限令順守率が続けば、田舎の地域などは軍の展開も選択肢

順守率は改善したが、警察を補佐するため首都圏も含め軍を投入する

順守率は90%ぐらいになったが、残り10%が大きな問題。より強硬な手段も選択肢

EMCO対象地域は軍が完全封鎖する」(今ココ)

これを見ると、市民のパニックや拒否反応を抑えながらいつの間にか全国に軍を展開した経緯が分かると思います。在留邦人としては軍が出ているからといってパニックになる必要はありませんが、あまり事態を軽く見すぎるのも危険でしょう。

首都圏や一部の州・市が封鎖される可能性は

Concrete barricade

by HurwiczRocks

当初は「特に必要はない」とされていたものの、制限令3週目以降は順次移動制限が厳しくなっています。上で述べたように軍が首都圏各地に展開しているため、現実に起こるかどうかは別として今後封鎖が必要になった際にも即応できる態勢はすでに整っているとみてよいでしょう。

制限令が長引くにつれ、徐々に自宅から外に出られないように規制が厳しくなってきました。以前、当記事でも “もし夜間の外出が原則禁止されることになれば、首都圏の封鎖というのも現実味を帯びてくるかもしれない” と述べていましたが、制限令3週目以降は夜間の外出が事実上禁止されています。また、EMCO (強化された活動制限令) の対象になると完全封鎖になることもはっきりしてきました。今のところ州や市といった大きな行政区域の封鎖は行われていませんが、今後も十分に動向を注視する必要があるでしょう。

経済活動については一部緩和の可能性も

マレーシア政府は、活動制限令 (MCO) の目標を「感染の連鎖を断ち切ること」としており、連日新規感染者が減らない現状では全く達成できていません。しかし、今のままの制限令を続けると経済に回復不可能なダメージを与えかねないと危惧されています。そういう意味では、個人の外出は厳しく制限しながらもある程度の経済活動を回していけるよう、営業が許可される業種を増やすなど何らかの緩和措置が取られる可能性もあるでしょう。

国家非常事態宣言が出される可能性は

現在のところ、マレーシア政府は非常事態の宣言について考えていないという立場を示しています。(参考―The Star:”Cops rubbish recording claiming state of emergency will be declared“)

しかし世界を見ると、アメリカをはじめ同じ東南アジアのフィリピンやタイなど、今回の新型コロナウイルス感染を深刻な危機をとらえすでに国家非常事態を宣言した国は2ケタに上ります。予算や権限において政府により大きな力を与えることになる国家非常事態宣言は、国内における感染拡大の状況次第ではマレーシアにおいても必要となることが考えられます。

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まとめ

世界各地の報道を見ても分かるように、正直言って今後どうなるのか1週間後の状況を予想することすら難しい情勢です。そうではあっても、いきなり不意を突かれるよりは、可能性を幾つか頭に入れておくことで対処の幅も広がりますし、何より落ち着いて状況を判断しやすくなります

マレーシアの場合、今日許可されていたことが次の日には禁止される (またはその逆) など、一日にして法令の適用基準が変わることも珍しくありません。お友達やご近所のマレーシア人ローカルと情報交換するなど、在留邦人の皆さまも日本語のものも含めデマ情報には気を付けつつ、常に最新のニュースを入手するようになさってください。

(2020年3月25日:テキスト追加・修正)
(2020年4月9日:記事加筆修正、レイアウト変更)

 


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40代の通訳者です。
マレーシアのクアラルンプール在住。

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