日本を含め、世界中の多くの国で日常生活にも影響が出ている新型コロナウイルス (COVID-19) の感染。スポーツや飲食業界に与える影響についてよく取り上げられていますが、コーヒーの生産にも無視できない影響が出ているようです。
消費の落ち込み
世界各国で外出禁止や何らかの制限または自粛が求められている現状で、当然人の集まるカフェは規制の対象になっています。持ち帰りであればOKというところは多いようですが、それでも普段と比べるとコーヒーの消費量が相当落ち込んでいることは確かでしょう。消費が減ると当然店側は購入する豆の量を減らします。そうなると、コーヒーを焙煎しているロースターも大量の在庫を避けるため生豆の仕入れを減らさざるを得なくなります。
実際、コーヒー生産国ではすでに買い付けのキャンセルや支払いの遅れなどが生じているようで、その影響は生産国から消費国に輸出する中間業者にかかってきます。そして、そのしわ寄せは最終的にコーヒー生産者に及びます。買い付け側はキャンセルすれば済むかもしれませんが、生産者はコーヒー生産にかかるローンの返済や労働者への支払いなど、毎年の収穫と予想される売り上げに頼っているのが現状です。今回のように、世界中でコーヒーの需要が一気に落ち込めば、せっかく生産した豆を買い取ってもらえなくなる、または市場価格が下がって利益にならないなど、生産者にとって大きなダメージとなるのは避けられません。
労働者の不足
コーヒーの生産過程でも特に大切なのは、コーヒーの果実を適切なタイミングで収穫して生産処理することです。そのための労働力が、新型コロナウイルスの感染拡大で大きな影響を受けています。
コーヒー農園で働く労働者の多くは外国人で、収穫に合わせて各地の農園から農園へと渡り歩いているケースも少なくないようです。しかし、新型コロナの感染拡大に伴ってどの国でも外出禁止やいわゆる「ステイ・ホーム (家から出ない)」ことが推奨されており、収穫のための季節労働者が集まらないという問題が表面化してきています。ある農園では、通常の3分の1程度の労働者しか確保できなかったとのこと。そうなるとコーヒーの収穫タイミングにも影響が出て、コーヒーチェリーが熟し過ぎてしまったり、収穫作業が質より量優先になって品質が落ちたりしてしまいます。当然それはコーヒーの買い取り価格をより引き下げる結果となってしまうでしょう。
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付加価値の高い豆の需要減
ここ数年で「スペシャルティコーヒー」という言葉がかなり定着してきたように、生産から収穫、また生産処理にまで手間をかけた高品質かつ付加価値の高い豆が世界のトレンドとなってきました。栽培が非常に難しいが風味は格別な品種、生産量がごく限られているマイクロロット、あるいは特殊な生産処理をかけた豆などは、通常よりはるかに高い値段で取引されるようになっています。
しかし、こうしたスペシャルティコーヒーを生産するには、まずこのレベルのコーヒーに求められる複雑で丁寧な仕事をこなせるよう訓練された労働者、栽培から収穫 (あるいは生産処理) までしっかり品質を管理できる生産者、そしてかけた手間と時間に見合った価格での買い取りが前提となります。このどれかが崩れると、品質を維持できなくなるかまたはビジネスとして成り立たなくなるからです。
今回の新型コロナの世界的流行は、上に挙げた3つのうち労働者と買い取り価格の2つに大きな影響を与えており、場所によってはせっかく丁寧に育てたスペシャルティコーヒーレベルの豆を、需要が急減したため通常のコーヒーと同じ価格で出荷せざるを得ないところも出てきているようです。こうした状況が続けば生産者側のモチベーションは大きく下がり、かけた努力が無駄になる可能性のあるスペシャルティコーヒーからは手を引くことにする農園が出てきても不思議ではありません。
観光の低迷
新型コロナウイルスの感染が完全に終息するまでの間は、世界各国で何らかの入国制限が続くものと見られます。そのような状況では、観光のための旅行は大幅に少なくなると考えられます。
コーヒー生産地の中には、ハワイやインドネシアなど地元に来る観光客へのコーヒー売り上げが観光産業の一部として成り立っているところもあります。そうした国では、観光の低迷はコーヒー生産者の利益に直接的な影響を及ぼすことになるでしょう。
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まとめ
コーヒーというのは、農園から私たち消費者の手元に届くまでに様々な人の手を経る巨大なサプライチェーンが存在しています。今回の新型コロナウイルスによる影響はその全体に及んでおり、今後の世界のコーヒー流通にも大きな衝撃を与える可能性があります。特に輸出入や生産に関わる問題については、関係各国政府が何らかの支援や救済措置を講じる必要があるでしょう。
しかし、私たちにもできることがあります。
それは、自宅で美味しいコーヒーを楽しむことです。
外出に制限がかかっている状況でも、豆の配送をしてくれるカフェやロースターは沢山あります。需要があればロースターは焙煎と出荷を続けられ、生豆の輸入業者も買い付けを継続できます。そして、生産国の側も消費国への輸出が継続できると分かれば、生産者の作ったコーヒーが安値で買いたたかれるケースも減るでしょう。特にスペシャルティコーヒーにおいては、流通量自体が少ないので需要の兆候にはより敏感に反応するはずです。カフェでゆっくり時間を過ごすことは感染が終息するまで当分無理だとしても、その分自宅で美味しいコーヒーを飲むことでコーヒーの供給網全体をサポートすることにつながるのです。
もちろんコーヒー業界の巨大さを考えると、一人の行動が直接与える影響などほとんどないかもしれません。それでも「外出の自粛=消費の自粛」という図式ではなく、違った仕方で消費を継続することはコーヒーに限らず無意味ではないはずです。新型コロナによる社会制限はまだまだ終わりが見えませんが、毎日の美味しいコーヒーで皆さんの気持ちが少しでも明るくなりますように。
[参考資料]
(2020年4月14日), COVID-19: What Coffee Farmers Want You to Know. Perfect Daily Grind, URL: https://perfectdailygrind.com/2020/04/covid-19-what-coffee-farmers-want-you-to-know/ (参照日:2020年4月27日)
(2020年4月15日), コロナがハワイのコーヒー農園を直撃「コーヒーを摘む外国人労働者がいなくなる」. FNN PRIME Online, URL: https://www.fnn.jp/articles/-/32538 (参照日:2020年4月27日)