Hoi An
ホイアン・トゥボン川
ベトナム / クアンナム省
ホイアンといえば、歴史あるコロニアルな街並みと至る所で頭上にゆれるランタンが脳裏に浮かぶ。しかし、街の中心をつらぬくトゥボン川が世界で最も有名な運河の一つに数えられていることはあまり知られていない。
夜明け前の明るさを増してゆく空に柔らかく照らされる早朝、昼のまぶしい陽光の中で川縁に映えるパステル色の外壁、橙(だいだい)や群青(ぐんじょう)などが複雑に入りまじった光にすべてが包まれるたそがれ時、そして彩り豊かなランタンで着飾った街が水面にきらめく夜。―ホイアンの水辺は時が流れるにつれて刻々と変わる表情を見せてくれる。
“ベトナムのベニス” とも言われるほど、ホイアンの街とそこに住む人々の生活は川と深く関わっている。とはいえ、水は時として穏やかな流れとは一変した姿を見せることもある。川とほぼ同じ高さに家々が建ちならぶホイアンは、これまでも頻繁に洪水を経験してきた。
しかし、それを「災害」という言葉で単純にくくることはできない。
築100年を優に超えるであろう家を見ると、2階の床に格子がはめ込まれた四角い穴が開けられていることに気づく。実は洪水の際、ここから下の階の家具を引き上げられるようになっている。また通りが水であふれると、人々は水路となった道をボートで移動し、小舟の上で相変わらず新婚カップルの記念撮影を行い、水が引くまで不便ではあるものの洪水なりの生活を送る。
このように、ホイアンの人々は洪水が起きることを前提に家を作り、ある意味でこの自然現象と共存する暮らしを何百年にもわたって続けてきた。大がかりな治水工事でも行われない限り、今後もホイアンが洪水に見舞われたというニュースを目にするだろう。しかし、しばし解き放たれた水の力に必要以上にあらがうのではなく、むしろ受け流す方法を身につけてきたこの街の歴史を知ると、自然に対する現代社会のあり方についてふと考えさせられる。
2020年以来、海外旅行という言葉が身近な世界から消えてしまったが、新型コロナが落ち着いたらぜひまた行きたいと思う場所の一つだ。
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(2021年3月11日:テキスト追加・修正)