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チェンマイ拠点のスモールバッチロースター
タイ北部の都市チェンマイはその歴史的な趣のある町並みに加え、レベルの高いカフェが集まるコーヒー文化を楽しめる街としても魅力的なところです。そのチェンマイを拠点にスタートしたこだわりのコーヒーロースターとして、今熱い注目を集めているのが「Left Hand Roasters (レフトハンド・ロースターズ)」です。
スモールバッチの焙煎なので、基本的にオンラインショップでの販売のみとなっている同店のコーヒー。「Left Hand Roasters」を立ち上げてからまだ1年足らずにもかかわらず、すでに地元タイのメディアでは「タイで一番お値打ちのコーヒーサブスクリプション (定期購入)」として取り上げられるなど、コーヒー関係者の間で確実に存在感を増してきています。またバンコクにある複数のミシュラン星付きのレストランでハウススペシャルとして提供されているということからも、そのクオリティーの高さがうかがい知れるでしょう。
創業者兼ヘッドロースターのダスティン・ジョセフ (Dustin Joseph) さんは、非常に敏感な味覚と天性の料理センスを持つトップシェフとして、これまで幾つもの一流レストランの立ち上げやトレーニングに関わってきました。また世界数十か国を回って食から見た文化人類学の研究・執筆活動を行うなど、とにかく食べ物に関するパッションが半端じゃありません。「Left Hand Roasters」のコーヒーには、彼のそうした情熱がたっぷりと注がれているのです。
先日ダスティンさんに会って、取り引きしているコーヒー生産者の情報や焙煎へのこだわりなど色々聞いてきましたので、その一部をご紹介したいと思います。
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地元のコーヒー生産者との深い信頼関係
「Left Hand Roasters」では、地元の生産者コミュニティをサポートしながら質の高いコーヒーを作ることを目標に掲げています。仕入れ先はタイ北部のチェンマイ、チェンライ、そしてメーホンソンに絞り、家族経営の小さな農園から直接買い付けるようにしているとのこと。ダスティンさんは生産者と信頼関係を築くため、何度も農園に足を運んで現場を見ながらしっかりとコミュニケーションをとるよう心がけているそうです。 (ダスティンさんはアメリカ人ですが、タイ語がペラペラ)
元は茶園だった ― 桜の木に囲まれたコーヒー農園
下の写真は、「Left Hand Roasters」が買い付けているコーヒー生産者の一人、P’See さんと P’Jaroon さんです。(真ん中に写っているいるのがダスティンさん) この写真の農園は、標高が1,200mから1,300mに位置しています。桜の木がシェードツリー (コーヒーに直射日光が当たらないよう日陰を作る役割の木) として立ち並ぶ美しい環境ですが、かつては数百年にわたり烏龍茶を生産する茶園として使われていたそう。
P’See さんの農園では、下の写真にあるようにさまざまな種類のコーヒーを目にすることができます。農園をじっくり見ながら歩くと色々な発見がある、というダスティンさん。
丁寧に生産処理された P’See さんのブラックハニーは、ダスティンさんがロースターとしてお気に入りのコーヒーの一つだそうです。「糖分が多いため焦げないように細心の注意を払いながら、ブラックハニーの美味しさをギリギリまで引き出すのがポイントなんだ」と熱く語ってくれました。
リス族のコーヒー農園 ― ケシからコーヒーへ
上の写真はリス族の Khun Abae さんのコーヒー農園で、パーチメントビーンを乾燥させているところです。標高1,500m前後の高地に位置し背後にドイチャンの山々を望むのどかな景色ですが、少し前までこの「ゴールデントライアングル」と呼ばれる地域一帯では、麻薬の原料となるケシの栽培が主な収入源となっていました。しかしタイ王室が推進するロイヤルプロジェクトにより山岳民族など現地住民への技術援助と農作物の導入が行われてきた結果、近年ではコーヒーの他にマカデミアナッツの一大生産地としても知られるようになり、この地域を印象づけていた負のイメージはようやく過去のものとなりつつあります。
タイで最古のアラビカコーヒー生産地
チェンマイ市内から南西に約90kmのところに位置する、タイ最高峰のドイインタノン山 (標高2,565m)。タイにおけるアラビカコーヒーの栽培は、一帯が国立公園に指定されているこの美しい土地から始まりました。
下の写真は、そのドイインタノンにあるラパト・オーガニックコーヒーファーム (Lapato Organic Coffee Farm) の生産者のお二人。自分たちが作るコーヒー豆がどのようにローストされるのか、ダスティンさんが焙煎記録の数値を見せながら説明しているところです。(真ん中に写っている P’Kwiv さんは複数のコーヒー農園を管理し、生産処理も自ら手がけている)
「Left Hand Roasters」のローストについて
コーヒーによっては、一口目に美味しいと感じても舌に残る味わいがやや雑だったり、特定の風味が強く立ちすぎていたりするものもありますが、「Left Hand Roasters」の焙煎は、アフターテイストが非常によくまとめられているのが印象的です。ウォッシュド、ナチュラル、ハニープロセスと色々な生産処理の豆を扱っていますが、そのどれもが特長を生かしつつ心地よい余韻の後味が楽しめるよう仕上げられています。
個人的には、特にブラックハニーがイチオシです。ブラックハニーは生産処理の工程で生豆自体の風味がとても豊かになりますが、焙煎の仕方によっては香りは強いもののバランスが良くなかったり、せっかくの甘さや香ばしさが思ったほど舌には感じられなかったりするものもあります。その点「Left Hand Roasters」のブラックハニーは、口に含んだ瞬間からアフターテイストまで風味がジェントルに立ち上がり、濃厚なのに重くなくかつハニープロセスらしさがキレイに出ている非常に美味しいローストだと思います。
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ちなみに「Left Hand Roasters」で使っている焙煎機 (下の写真を参照) は、何とエンジニアであるダスティンさんのお父さんが自分で作ったもの。自作と言っても、決して「なんちゃってロースター」ではありません。メーカーが売っているプロ仕様のものにまったく引けを取らないどころか、パワフルなファンで焙煎後の豆の熱を一気に下げる通常よりかなり大きなサイズの冷却器など、メーカー品よりも性能が上回っている部分も多いんだとか。「同業者がウチに来ると、みんなこれ見てビビるんだよ (笑)」とダスティンさんも言っていましたが、この機械でローストした豆を味わえば確かにその完成度の高さがよく分かります。
「Left Hand Roasters」の豆はどこで買えるの?
個人客へは基本的にオンラインショップでの販売のみとなっている「Left Hand Roasters」のコーヒー。国外への発送については、配達にかかる日数や輸送中のコンディションなど、コストを抑えながらもコーヒー豆を高い品質のまま送れるよう細かい調整を進めているところだそうです。日本からの注文にはすでに対応済みで、発送から約8日ほど (輸送状況により多少のずれあり) で届きます。将来的にはアメリカやヨーロッパへの発送も計画しているとのことで、今後の展開が楽しみです。
(その他お住まいの国や地域への発送が可能かどうかは、直接「Left Hand Roasters」までお問い合わせください。)
国際市場ではまだ知名度が高くはないタイのコーヒーですが、手間をかけて管理された農園で生産される豆のクオリティは、名の知れたコーヒー生産国のスペシャルティコーヒーと比べても勝るとも劣らないものです。そんな選び抜いた北タイのコーヒーの魅力を十二分に引き出している「Left Hand Roasters」。タイ産の高いクオリティのコーヒーを自分たちの手で世界に発信していきたい という目標が現実になるのも、そう遠い日ではないでしょう。
※ 「Left Hand Roasters」の豆については、下の「テイスティングノート」をご参照ください。
<お問い合わせ>
Left Hand Roasters
公式サイト (英語): https://lefthandroasters.com/
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(2019年1月1日:タイトル修正)
(2019年1月6日:情報追記)
(2019年2月27日:テキスト修正)