当ブログでは「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの感染状況は?」と「【新型コロナ (COVID-19)】マレーシアの活動制限令について分かっていること」の記事を随時更新して現地の情報をお伝えしていますが、当初3月31日までとされていた活動制限令 (MCO) が再延長されることに伴う影響について書きたいと思います。
本記事の情報は2020年3月末当時に書かれたものです。現在の状況とは異なる内容が含まれている点をご了承ください。
Contents
活動制限令 (MCO) の再延長が決定
急激な感染拡大のリスクが大きくなったことから、マレーシア政府は3月18日から活動制限令 (MCO) を施行しています。当初は2週間 (3月31日まで) としていた制限令の期間ですが、感染者の増加が止まらないことに加え一般市民の中に制限令を真剣にとらえていない人も少なからず見られたことから、2週間ごとの延長を繰り返し6月9日までとなりました。これでマレーシアは最低でも計2か月にわたって活動制限令が施行されることになります。(注:回復のための活動制限令 (RMCO) が6月10日から8月31日まで施行されています)
この制限令は、施行当初と比べると日を追うごとに規制が厳しくなっていきました (条件付き活動制限令施行後に緩和)。その幾つかの例を下にあげます。(2020年6月21日現在)
<屋外活動>散歩等は規制なし→全面禁止→安全な距離を保てばOK
<買い物>外出人数規制なし→家族代表1名のみ→家族2名まで→家族4名まで→同一家族は規制なし→規制なし
<自宅からの移動>距離規制なし→原則半径10km圏内→約半径15kmまで→同一感染地域内は規制なし→原則規制なし
<公共交通機関>通常通り→通勤時間帯のみ運行→通常通り
<取り締まり> 軍は必要なし→施行4日後に軍を投入→大幅に縮小
<罰則>違反者への罰則は明記されず→罰金・刑期等のペナルティ
<州をまたぐ移動> 制限は保留→禁止→原則禁止→原則規制なし
3月26日にイスマイル・サブリ (Ismail Sabri) 国防長官は「制限令の次の段階 (フェーズ2) ではより厳しい規制が実施される」と発言。その後、国家安全保障会議から厳しくなった活動制限令 (MCO) の内容が発表されました。フェーズ2以降に関しては、制限令の期間がただ延びたというよりも新たな規制が実施されたと考えた方がよいかもしれません。これに先立ち、地元では治安当局は違反者の検挙を強化し、3月27日にはジョギングしていた日本人4名を含む11名の外国人が感染症予防管理法違反で逮捕されたという報道もありました。(参考―The Star:”MCO: 11 men including nine foreigners jogging around Mont Kiara arrested“)
5週目から6週目となるフェーズ3では市民の移動制限は基本的に変わらないものの、経済活動に関しては一部緩和されました。この傾向は、7週目からの2週間となるフェーズ4でも続くと見られます。
日本人が “ジョギング中に逮捕”
事案の詳細
地元紙「ザ・スター (The Star)」によると、拘束されたのはマレーシア人2名、アメリカ人1名、イギリス人1名、インド人1名、日本人4名、韓国人2名の計11名。場所はクアラルンプール郊外の駐在員も多く住むモントキアラ (Mont Kiara) 地区。ここは高層コンドミニアムが並び立つ住宅エリアで、徒歩圏内に複数のショッピングモールや商業施設があるため、普段であればメイン通りを子連れで歩く日本人家族の姿もよく見かけます。同エリアにはインターナショナルスクールも複数あり、住民の大部分が外国人と言ってもよいところです。このモントキアラを巡回していた警察が朝にジョギングしていた外国人を見つけ、“不要不急の屋外活動をしている” ということで捕まえたとのこと。
警察はこの件に関して、「外出してジョギングをするのは制限令を堂々と無視した行為」「警察官の指示に従わないばかりか、筋の通らない言い訳までした」とコメント。
実は、制限令施行当初は同じことをして警察に止められても「外で運動なんかせずに、今はちゃんと自宅にいてくださいね」と言われる程度で済んでいました。確認はできませんが、今回拘束された人たちも恐らく当日初めてジョギングしていたわけではないはずで、“これぐらい大丈夫だろう” という意識があったのかもしれません。
違反の罰則と影響
今回はとりあえず裁判所の判断によりRM1,000の罰金となりましたが、警察は「RM10,000の罰金または2年以下の刑期が科せられる公務執行妨害に当たるかどうか捜査中」と述べていたことからさらに重い罰則が適用された可能性もあり、軽い気持ちで行ったであろう制限令下のジョギングでも大きなトラブルを招くという事例になっています。
今回の事案の背景としては、地元マレーシア国民の中にも制限令を軽視する人がいまだに一定数いること、また延長された制限令下でのより厳しい措置を施行する直前の時期だったことから、当局が違反した外国人をいわば見せしめとして (一般市民への警告という意味合いで) あえて厳しい措置をとった可能性があるのではないかと考えられます。この種の“警告”は、マレーシアに限らず日本の当局でも目にすることです。
残念なことに、日本人を含め地元の外国人コミュニティーの中には現状を真剣にとらえていない人たちも少なくありません。「いつもしていることだから大丈夫」「ちょっとだけならバレない」「みんなやっている」などと考えて、家の前の道を散歩したり、買い物のついでに少し寄り道したり、遠くまで買い物に行ったりする人もいます。しかし、普段は適当に見逃してくれるかもしれない警察でも、今はそういう時期ではありません。言い訳をしてもすぐ見破られますし、下手に言い返したりすると公務執行妨害扱いで余計に罪が重くなります。他の人が何をしているかを参考にするのではなく、何がダメなのかを自分自身で把握しておく、そして “マズいかな・・・” と感じることであればやめておくといった点も、“自分の身は自分で守る” ためにできることの一部です。
マレーシア政府にビザを発行してもらって滞在できる在留外国人としては、こうしたことで違反歴や前科がつくとビザやその他公的申請などに影響が出て、今後の生活や滞在に大きな不利益を及ぼすことにもなりかねません。会社に雇用してもらっている身であれば、職場でも少なからぬ影響があるでしょう。外国人である以上、地元マレーシア人以上に軽率な行動を慎むよう注意が必要だということを忘れないようにしましょう。
今回捕まった人たちは “ただタイミングが悪かった” とも言えますが、新型コロナウイルスの感染拡大を何とか抑え込もうとしている国内状況を考えるとやはり軽はずみな行動だったことは間違いありません。駐在員も多いモントキアラでジョギング中に逮捕されたというニュースは、地元の外国人コミュニティーにも衝撃を持って受け止められています。こうした事例を教訓に、私たち一人一人が気を引き締めていきたいと思います。
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強化された活動制限令 (EMCO) って何?
制限令2週目の半ば頃から政府当局が使うようになった EMCO (Enhanced Movement Control Order) という言葉。これまでの活動制限令 (MCO) と何が違うのでしょうか?
意味合いが変わった “EMCO”
当初、 “EMCO” は新たに2週間延長された制限令自体を指しているという理解でした。当局が「延長すると同時に今より厳しい (強化した) 措置を取る」と言い始めてしばらくすると、それが “EMCO (強化された活動制限令)” と表現され出したわけです。(参考―The Star:”Enhanced MCO only announced once details finalised, says Ismail Sabri“)
しかし、元々3月28日 (土) に発表するとしていた追加規制の内容は、政府内で詳細を詰めるまで延期とされました。それと前後してEMCOは感染リスクの高い一部の地区に適用される強化措置のような扱いへと変化してゆきます。
これまでの適用例を見ると、EMCOが適用される地区は出入りが禁止 (完全封鎖) され住民の外出も一切禁止となっています (食料や生活必需品は基本的に配給となる)。また地区一帯で消毒剤の散布も行われます。基本的には “レッドゾーン” と呼ばれる40名以上の感染者が発生した地区の中で特に集団感染が疑われる地域がEMCO適用候補になるようです。当初EMCOはマレー語でカンポン (kampung) と呼ばれる村や集落のような小さな行政単位に限られていましたが、その後は感染者が多数発生した集合住宅を丸ごと封鎖するケースが続いています。
現在EMCOが適用されているコンドミニアムやマンションは出稼ぎの外国人労働者が多く住むところで、部屋によっては15人から20人が共同で寝泊まりしているところも少なくないようです。そうした感染が急拡大するリスクの大きい建物ということもあり、住民の検査が終わるまで完全封鎖という措置が取られていると見られます。
再延長された活動制限令で何が変わるのか (※ 5月4日以降大幅に緩和)
移動の制限は?
初期の段階から活動制限令 (MCO) においては不要不急の移動を制限されていましたが、フェーズ2以降は対応のレベルをさらにあげてレッドゾーンの一部地区など特定エリアへの出入りをより厳しく制限するケースが増えました。
“食べ物を買いに行く” といった名目で自宅から遠くまで移動する人が少なくないことから、今後生活必需品や食料品の買い出しでの外出が「自宅から最大〇〇km以内」といった形で規制されるだろうと予測していましたが、やはり延長された3週目以降は生活必需品の買い出しおよび医療を受けるための外出が基本的に自宅から半径10km圏内に制限されました。特別な事情がある場合は、最寄りの署で警察署長に特別許可を発行してもらう必要があり、不可欠なサービスの業種で働く従業員も仕事で自宅から10kmを超える距離を移動する場合は雇用主のレターが必要となっていました。(参考―The Star:”Any travel to buy food, necessities now restricted to 10km under MCO’s second phase” / “727 people including 243 foreigners nabbed in Selangor for defying MCO“)
しかし、新規感染者の増加に落ち着きが見られてきたことから7週目以降は制限がやや緩和され始め、条件付き活動制限令 (CMCO) の施行後は各種の移動制限が大幅に解除されました。まずは、外出理由を問わず自家用車一台につき同一家族は最大4人までの乗車を許可。5月半ばからは、最大4人という制限も撤廃されました。
営業してよい業種の見直し
感染リスクの高い密集した状態を避けるには、飲食店の営業は当面の間持ち帰りと宅配に限定されると見られます。また地元の人たちが食料品を調達する上で重要な市場 (pasar) では、お互いに距離をとること (ソーシャル・ディスタンシング) やその他衛生面での対策が徹底されない場合には軍が監視に入っているところもあり、今後も感染防止措置が徹底されるという条件でのみ営業を許される状態が続くのではないかと思います。
(2020年6月21日更新) 回復のための活動制限令 (RMCO) の施行により、6月10日以降さらに追加の業種で営業再開が許可されました。ただし、大勢の人が集まる/濃厚接触が起こる一部業種については禁止が継続されてます。
営業時間の短縮
(2020年6月21日更新) 回復のための活動制限令 (RMCO) が6月10日より施行されたことに伴い、営業時間の制限もほぼ通常通りに緩和されています。各州によって異なる場合もありますので、お住まいの地域の最新情報を入手するようになさってください。
1回目の制限令延長の際に営業時間については短縮されるだろうと想定していましたが、やはり4月1日以降は飲食店、宅配サービス、ガソリンスタンドおよびスーパーの営業時間が午前8時から午後8時までに制限されました。(参考―The Star:”Ismail Sabri: Eateries, supermarkets to only operate from 8am to 8pm from April 1“)
今後もしばらくはこの制限が続くはずですが、段階的に経済活動を再開していく中で状況を見ながら見直しが進められていくのではないかと思います。
公共交通機関の減便・一部休止
公共交通機関については、現時点では通勤時間帯に限って運行を続けていますが、これもより広い業種で営業が認められるようになれば運行時間の一部見直しも考えられます。
(2020年5月2日:追記) 条件付き活動制限令 (CMCO) の施行に伴い、5月4日以降公共交通機関はほぼ通常通りの運行を再開しています。(参考―The Star: “Rules updated under conditional MCO“)
外出時間の規制
当初の活動制限令 (MCO) では外出の禁止時間は明記されていませんでした。しかし、予想していたようにフェーズ2へと制限令が延長されるに伴い自家用車の使用が午前6時から午後10時の間のみに限定されました。この制限は、Grabなどのオンライン配車サービスやタクシーにも適用されています。(政府広報SMS原文 (マレー語):“PKP Tahap 2 -Kenderaan persendirian hanya dibenarkan antara jam 6.00 pagi sehingga 10.00 malam, termasuk perkhidmatan E-Hailing dan Teksi.”)
マレーシア政府は、一般市民に与える印象も考えてか “夜間外出禁止令 (curfew)” の発令にはどうも乗り気ではないところがありますが、公共交通機関の利用も夜10時までとなっており、車がなければ移動できない環境で夜10時以降の自家用車使用禁止というのは、実質夜間外出禁止令と同じと言ってもよいでしょう。
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今後の見通し
活動制限令 (MCO) 2週目になっても感染者の増加に大きな減少が見られず、フェーズ2へと2週間延長されました。しかし、4週目になっても感染は一定の数字で拡大を続けていることからさらに2週間の再延長 (フェーズ3) が決定されました。
制限令5週目に入ると、それまでずっと3ケタだった新規感染者数が2ケタ台で推移するようになり、恐らく3週目あたりからの違反者の取り締まりや移動制限を強化した結果が表れてきたものと見られます。ただし、都市部の大学キャンパスから動きがとれなくなっていた約10万人の学生をそれぞれの出身都市に帰す措置がこれから進められること、隣国シンガポールでは外国人労働者を中心に感染が急拡大していること (まだ相当数のマレーシア人が現地で帰国待ち状態)、さらに人の移動が急増する1か月間のラマダン (断食月) が4月23日から始まったことなど、マレーシアが様々なリスクを抱えていることは否定できません。当局も現時点で制限令を解除するのはまだ早いと判断し、4月23日には制限令を5月12日までさらに2週間延長することを発表。これで、当初2週間の予定で始まった制限令はフェーズ4 (計8週間) に入ることになります。
(2020年6月12日:追記) ムヒディン首相は、6月10日以降回復のための活動制限令 (RMCO) を施行すると発表。詳細は当ブログ記事「【マレーシア】RMCOで何が変わるか (2021年1月施行)」をご覧ください。
当ブログの他記事でも述べましたが、制限令施行前後の混乱で感染が全国各地に拡大した可能性は否定できず、各地でさらに検査が進めばこれまで見つかっていなかった感染が発見される可能性があります。また、モスクでの集団感染関連で未検査の濃厚接触者も4月6日の時点で5万5,000人以上と言われており、首都圏で外国人労働者が多く住む住宅エリアの複数が集団感染の疑いでいまだに完全封鎖されている現状を見ると、感染拡大の封じ込めにはまだまだ遠い道のりでしょう。(参考―The Star: “Covid-19: Police identify 55,000 close contacts in infection chain“)
国内の医療機関の絶対数を考えても失敗すると後がないため、マレーシア政府は何が何でもこの期間中に大規模な感染の連鎖を絶とうとするはずです。今のところ感染者を受け入れる病床数やICUにある程度の余裕があるのは朗報ですが、一度爆発的な感染拡大が起きればすぐに医療崩壊が迫ってくるので、下手に制限を緩めるわけにはいかないはずです。
フェーズ4への延長を発表した際、ムヒディン首相は5月12日以降もさらに制限令が延長される可能性を表明しました。(参考―The Star: “Stay home longer, Malaysians“) 実際に6月9日まで1か月延長となり、その後さらにRMCOとしての制限令が8月31日まで延長されることとなりました。以前にもこの制限が今後数か月続く可能性について言及しており、イベントや集会の制限、ソーシャル・ディスタンシングの徹底など、“新常態/「新しい生活様式」” (new normal) を受け入れるべきだと当局が繰り返し述べていることからも、新型コロナウイルス (COVID-19) との戦いが年単位の非常に長いものになることは避けられないと見られます。(参考―The Star: “We must adapt to the new normal, says PM“)
(2020年5月18日:追記) 保健当局は、「今後も新規感染者を2ケタに抑えられるようであれば、出口戦略を考慮する可能性がある」と述べました。一方で、「現時点ではまだ出口戦略を話し合う段階ではない」としており、各自が感染拡大防止のためのSOPを遵守することの重要性を強調しています。(参考―The Star: “Health Ministry mulls action against parents taking kids to public places“)
(2020年4月17日:追記) マレーシア保健省は4月16日、初めて活動制限令 (MCO) を解除する具体的な条件に触れ、目安として「州内で新規感染者ゼロが14日間続くこと」という指針を示しました。州ごとに条件を満たしたところから段階的な解除を行う方向のようです。(参考―The Star: “Covid-19: Movement restrictions may be relaxed in areas with no new cases in 14 days“)
日本では「緊急事態宣言の期間が終われば普通に戻れる」と思っている人も少なくないようですが、新型コロナはそんなに甘いものではないことを各国は分かっています。実際、世界のどこかで感染が続いている限り、ワクチンが開発されて利用できるようになるまでは海外からの渡航者への入国制限は全面解除できないでしょうし、帰国者への隔離措置に加え、帰省や休暇などの移動にも当分の間何らかの条件が付けられる可能性があります。現地マレーシアでは、学校の再開は学習環境の安全が確認されるまで行わないとしており、オンライン教育への移行に向けて関係各局が動いている様子も報じられています。
(2020年4月24日:追記) 保健当局は、たとえ活動制限令 (MCO) が解除された後も外国人の入国制限を継続することを明言しました。(参考―The Star: “Travel ban may continue after MCO is lifted, says Dr Noor Hisham“)
国内メディアの報道の仕方によっても一般市民が抱く印象は異なると思いますが、2001年のアメリカ同時多発テロ前と後で世界情勢が大きく変化したように、どの国に住んでいようと “新型コロナ前” と “新型コロナ後” では日常生活も含め社会全体が大きく変わることは避けられないという現実は直視すべきでしょう。
マレーシア在住の日本人の方々も、状況は毎日変化しているため今後もデマ情報に注意しながら最新情報を入手なさってください。
(2020年3月31日:レイアウト変更)
(2020年4月24日:記事加筆修正)
(2020年6月21日:テキスト追加・修正)