ヌアヤーン (Neua Yang)
タイ風 焼肉 (牛肉)
タイ/チェンマイ県
名前からも分かるが、ヌアヤーンもガイヤーンと同じく肉を漬け込んでから「焼いた(ヤーン)」料理であり、タイ東北部やラオスに起源を持つ。肉にしっかりと味がついているガイヤーンと比べると、同じく下味がついているもののヌアヤーンはつけダレの存在感がより大きい。また、一品料理としてそのまま食べることの多いガイヤーンに対して、ヌアヤーンはそれ単体だけでなくサラダ(ヤムヌア)など他の料理に加える肉としても使われている。
大衆食堂だと結構しっかりと火が通った薄切り肉が出てくることが多い。一方、少し手をかけた料理を提供するレストランであれば、やや厚めの牛肉をレアまたはミディアムレアあたりの焼き加減で仕上げたものが主流派だろう。どちらにしても、基本は炭火で香ばしく焼き上げられており、そこに絡めて食べるタレ(ナムチムジェオ)が肉自体の旨味を十分に引き立ててくれる。砕いた煎りもち米、粉唐辛子、タマリンドやパームシュガーなど甘・辛・酸といった味の要素や異なる食感が複雑に混じり合ったタレは、辛さが際立つものの非常に奥行きのある味わいだ。
ヌアヤーンは、別名「スアロンハイ(=“虎が泣く”の意)」とも呼ばれている。厳密には使っている牛肉の部位でヌアヤーンとスアロンハイには違いがあるが、実際にはそこまで明確に区別されていないように思う。ヌアヤーンの一種がスアロンハイということなので、感覚的に日本で言えばトンカツというくくりの中にヒレカツがあるようなものだろうか。
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ヌアヤーンに使われる牛肉は、ホテルのレストランなどでは柔らかいステーキ肉を使用しているところが多い。しかし、筆者が忘れられないのは10数年前に初めてチェンマイで食べたこぶ牛の肉だ。もちろん肉質はお世辞にも柔らかいとは言えず、小さく切られた肉であっても相当に噛み応えがある。しかし、食肉牛として育てられた牛とは根本的に異なる濃厚な旨味と甘みが、タレの辛み・酸味と合わさって口の中で爆発的に広がるという経験は、これまでに味わったどの牛肉よりも強烈な印象を残した。
こぶ牛、と聞くと「クセがありそう」「臭いがきついんじゃないか」「固くて食べにくいだろう」といったネガティブなイメージがあるかもしれないが、仕込みダレに漬け込んだ肉を炭で焼き、これまたスパイスたっぷりのタレにつけて味わうヌアヤーンなら、クセなど感じることなく美味しく食べることができる。機会があれば、サシが入った柔らかいビーフとは異次元の野性味あふれる牛本来の肉の味をぜひ味わってみて欲しい。