トムセープ (Tom Saep)
タイ東北風 スープ
タイ/チェンマイ県
「タイ料理といえば?」と尋ねると、大抵の日本人が名前を挙げるのが“世界三大スープ”とも言われる「トムヤムクン」だろう。確かにトムヤムスープはタイ全土で食べられており、日本においてその知名度が高いのもうなずける。それと比べると、トムセープは残念ながら日本で広く知られているとは言えない料理だ。しかしタイの北部や東北部では、地元の人に普段よく食べられているのは実はトムヤムよりもトムセープなのである。
トムセープは、こぶみかんの葉、レモングラス、バジルといったタイ料理の基本ハーブをベースに、その他のハーブやニンニク、チリ、ライム、ナンプラーなどを入れて味を調えていく。キレのある辛さとさっぱりとした酸味が特徴のクリアスープだ。色々な食材から出る濃厚なうま味がスープに詰まったトムヤムとは、基本材料や辛さ&酸味という要素が似ているとはいえ明らかに異なる味わいである。少し強引に言うなら「トムヤムを寄せ鍋とすれば、トムセープは水炊きのようなもの」と考えるとある程度イメージが湧くだろうか。
トムセープを注文すると、店の人にどの肉を入れるかときかれる。通常は牛肉 (ヌア) または豚肉 (ムー) のどちらかを選べるはずだ。また肉の代わりにきのこ (ヘッド) を選べるところもある。(特に旬の時期は、新鮮なきのこを色々とミックスしてくれるのでとても美味しい。)
上の写真のように点々と赤いチリフレークが浮いていると非常に辛そうなのだが、スパイシーなものが大丈夫な人であればこの赤い唐辛子はそれほど辛くは感じない。要注意なのは小さな緑のチリだ。(ソムタムの辛さもこのチリからきている)恐ろしいのが、生のグリーンチリがたっぷりと入ったトムセープでも特に辛そうには見えないこと。しかし、油断したまま口にすると予想もしなかった辛さに全身から汗が噴き出すことになる。もし激辛が苦手であれば、注文時に伝えておくと少しはマイルドにしてくれるだろう。
確かに知名度No.1のトムヤムも美味しいのだが、食べた時にほっとするのはなぜかトムセープだ。豪華な料理ではないし、特に写真映えするような見た目でもない。しかし、ハーブやスパイスの輪郭が際立った爽快な香りに加えて体に染み入るような優しさも持ち合わせているトムセープは、シンプルながらタイの味覚の原点とも言えるのではないかと個人的には考えている。
ちなみにこの記事トップの写真は、地元の人たちに人気のガイヤーンの店が作っているトムセープだ。ここは豚のみ一種類なのだが、肉もモツも柔らかいうえに全く臭みがなく文句なしに旨い。とりわけ一緒に煮込まれてうま味がたっぷりしみ込んだ大根の味は格別だ。ガイヤーンの店ではトムセープも提供しているところが多いので、ガイヤーンを食べるならぜひ一緒に試して欲しい。
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