コーヒーの品種ノートです。
サルチモール (Sarchimor)
由来: | ビジャサルチとティモール・ハイブリッドの人工交配種 |
豆のサイズ: | 大きい |
収穫量: | 良好 |
風味の質: | 良い |
初回収穫: | 3年目 |
さび病: | 耐性高い |
炭疽病: | 耐性あり |
線虫: | 耐性不明 |
栽培適正標高: | 北緯5度~南緯5度:1,000~1,600m 北緯/南緯5度~15度:700~1,300m 北緯/南緯15度以上:400~1,000m |
サルチモールの歴史
コーヒーの栽培において世界中で大きな脅威となっているのがさび病です。特にアラビカ種はさび病に弱く、これまで多くの労力を費やして病害への耐性を持つ品種の開発が進められてきました。1950年代後半、ティモール・ハイブリッド種がポルトガルのさび病研究所 (CIFC) に持ち込まれ、そこで研究と選別が行われました。1960年代後半、ビジャサルチとティモール・ハイブリッドの交配種の一つにH361というコードが付けられ、これがサルチモールの始まりとなります。(同時期にカトゥーラとティモール・ハイブリッドの交配種も開発され、ここから派生した品種はまとめてカティモールと呼ばれるようになります。)
ブラジルのカンピーナス農業試験場 (IAC) にて幾つかのテストを経た後、1970年代にCIFCはH361を試験生産のため中南米各国の研究機関、またアフリカや東南アジアの一部の国々に送りました。その一つ、コスタリカの熱帯農業研究教育センター (CATIE) で研究対象となっていた品種にT-5296というカタログ番号が与えられ、この品種が中南米各地へと広がってゆきます。T-5296は遺伝的に不安定なためそのまま生産者が栽培するには問題がありましたが、伝わった先の土地でさらなる選別が行われ、ホンジュラスではパライネマ、エルサルバドルではクスカトレコ、プエルトリコではリマニ、そしてブラジルではトゥピやオバタなど、それぞれ固有の品種名で呼ばれるようになりました。
サルチモールの交配の元になったティモール・ハイブリッドは、1920年代に現在の東ティモールで発見されたアラビカとロブスタの珍しい異種間の自然交配種です。ティモール・ハイブリッドの遺伝子は病害への耐性が高いロブスタ種の特性を備えており、それが子であるサルチモールにも受け継がれました。さらにもう一方の親であるビジャサルチの矮小種という特性も引き継いだサルチモールは、さび病への耐性、また密集して栽培できる小さなサイズという特長に加えて風味もよいため、似たような背景を持つカティモールと同じく生産者には非常にメリットの多い品種となりました。
※ ちなみにサルチモールというのは、特定の一品種を指しているわけではありません。ビジャサルチとティモール・ハイブリッドの交配種には、研究機関による優良種の選別などを経て幾つもの種類 (T-5296、IAPAR 59、マルセレサなど) があり、これらのグループの総称として「サルチモール」という名が使われています。
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[参考資料]
World Coffee Research (2016) 「COFFEE VARIETIES of Mesoamerica and the Caribbean」, URL: https://worldcoffeeresearch.org/media/documents/Coffee_Varieties_of_Mesoamerica_and_the_Caribbean_20160609.pdf (参照日:2018年3月15日)